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ルカディア
イクセル・クライン
「あの、お知り合いですか?」

「あ、うん。彼はイクセル・クライン。《黒呀》の二つ名で呼ばれる冒険者(ハンター)だ」

 このまま黙っていると話が進まなさそうなので、思いきって尋ねてみる。
 ルカの思った通り、二人の視線がこちらに向いた。アーヴィンに紹介された青年は不敵な、あるいは皮肉めいた笑みを見せる。
 ルカはその時、アルが少し目を細めたことに気付くことはなかった。
 イクセルはルカが今まで会って来たどの人間とも違う、そんな感じがした。もし誰かに例えるなら……父に似ているのかもしれない。

「別に良いだろう。俺の気まぐれだと思っていればいい。おい、ルカだったか? 行くぞ」

 答えをいう前に、有無を言わさず腕を掴まれる。引き離そうにも少年と青年では力が違うし、驚いてそこまで考えが至らない。アルに至っては諦めているのか、ルカの肩に乗ったままだった。
 別にイクセルが同行するのが嫌な訳では無いが、唐突な展開に戸惑うのは当たり前である。

「えっ、あの、ちょっと……」

 やっと我に返ったルカは長身の青年を見上げる。勿論、ルカの抗議は耳に入ることもなくイクセルは手を話してくれない。
 アーヴィンとリリスは呆然と二人と一匹を見送った。
 ルカの肩に乗ったまま、先程から一言も喋らなかったアルトゥールは、人知れずため息を零す。

『やれやれ、ルカも厄介な者に気に入られたものだな』

 恐らくはルカが魔歌を歌う所を見たのだろうが、一体どういうつもりなのか。ルカは良い人々に囲まれて育ったせいか、少々無防備な所がある。あまり人を疑うことをしないのだ。
 あの男、イクセルと言ったか。何を考えているかは知らないが、ルカに害をなすようならば許しはしない。
 これからを考えるとアルは少しだけ重い気分になった。



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