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ルカディア
ありがとう
 目が覚めれば、いつもの日常だった。窓から差し込む朝日が少し眩しい。気だるげに身を起こせば、酷く喉が渇いていることに気づく。
 気を利かせてくれたのか、部屋にはルーア以外、誰もいなかった。

 先ほどまで見ていた夢は、まるで現実のように鮮やかでルーアの心を抉った。目を閉じればはっきりと思い出せる。同胞たちの怨嗟の声、嫉妬や憎しみ。
 喉はからからで水分なんてないはずなのに、ルーアの瑠璃色の瞳から涙がこぼれ落ちた。

「あ……」

 止めようとしても止まらない。シーツを引き寄せて握り締める。どうして涙が出たのか、ルーアにも分からなかった。悲しみか哀れみか、それとも別の何かなのか。

「ルーア、どうしたの? 怖い夢でも見た?」

 聞き慣れた声に顔を上げる。
 するとそこには扉を開けたまま、心配そうに自分を見るルカの姿があった。彼はすぐにルーアの涙に気付き、ゆっくりと歩み寄るとルーアのベッドに腰掛ける。

 答えることが出来なくて、無言で首肯した。慈しむように髪を撫でられると、堰を切ったように涙が流れ落ちる。ルーアが何よりも怖れているのは、孤独。
 夢の中には自分を理解してくれる存在はいなかった。皆、ルーアを憎しみ、あるいは嫉妬の篭った眼差しで見つめていたのだ。

「そっか……でも大丈夫だよ。そばにいるから」

 声を殺して泣くルーアを、ルカは優しく抱きしめる。何度も大丈夫だと言って背中をさすった。
 いつかアルが言っていた。ドラグーンとそのマスターは精神的に繋がっているという。ルーアの悲しみが伝わって来る。
 言葉など必要なかった。少なくても今は。

「ルカ兄……」

 ルカの手はあったかくて、いつも自分が望むものをくれる。これ以上、この人に甘えてはいけないと分かっているのに。
 だってもう、終わりが見えているから。ルカのためなら、何物も惜しくはない。彼の力になりたいと思う。ルカは何も知らなくていい。全て自分がもってゆく。

「たまには甘えてもいいんだよ」

 なのにルーアの考えを読んだようにルカが笑う。
 生まれてからはや千年。甘えることすら許されなかった。自分を作ってくれたあの人にさえ、弱音を吐くことは躊躇われた。甘えるなんて論外だ。

「甘えて……いいの?」

「勿論。それとも年下の俺に甘えるのは嫌?」

 ルーアは生まれてから過ごした時間はそれほど長くない。
 しかし封印されていた時間を合わせると千歳以上であり、十五歳のルカよりずっと年上である。つまりルーアにはルーアの矜持がある訳で。

「ううん。そんなこと……ない」

「なら問題なし!」

 どんな時間を生きていても甘えたいなら甘えればいい。問題ないと微笑むルカに、ルーアも涙を拭い顔を綻ばせた。

(ありがとう、ルカ兄。貴方がいたから、僕はこの世界に“生まれる”ことが出来たんだ)




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