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ルカディア
心がある証
 “仲間”たちがルーアを見ていた。感情のない、虚ろな瞳で。だというのに、彼らがルーアを見る瞳には嫉妬や絶望と言った負の感情が浮かんでいるような気がする。皆、口々にルーアを責めるのだ。何故、お前ばかり、と。
 数多く作られた人造竜兵の中で、ルーアは唯一の成功体だった。他と人造竜兵とは違い、人間に近い心と呼べるものがあった。

 ルーアを除いた仲間たちは、力に耐え切れず暴走するか、失敗作の烙印を押されて処分された。ただ一つの例外もなく。無慈悲なまでに。

 怨嗟の視線を向けて来る仲間たちにルーアは何も言い返せずにいた。
 仲間たちの中には人と竜を混ぜた異形のものや、皮膚が醜く爛れた竜の姿をしたものがいる。ひしひしと伝わってくるのだ。お前が憎い。何故お前ばかり、と。そんなことルーアにも分からなかった。

 ここは暗くて寒い。まるで永久凍土の中にいるように。
 あの人が助けてくれたから、ルーアは生きることは出来た、世界を知ることが出来た。あの人が愛したこの世界を。

 自分の命は無数の骸の上に築かれたもの。彼らはそれを忘れるなと言いたいのだろうか。忘れていた訳ではない。ただ、思い出す回数が少なくなっただけ。

 ルカやアル、イクセたちの隣は心地良くて、つい甘えてしまったのだ。『ルーア』は竜を元にして作られた偽物なのに。そのことが酷く罪深い気がしてルーアは唇を噛んだ。

『ごめんね。でも僕は最後までルカ兄たちのそばにいたい。だってもう……』

 今にも崩れ掛けた同胞たちに向けてルーアはそう謝った。その先は言葉にならない。口に出すことは躊躇われた。すると彼らの形は崩れさらさらと砂になって行くではないか。
 残されたのはルーアただ一人だけ。一人ぼっちになったのだ。

 皆、ルーア一人を残して逝ってしまった。この世界にルーアと同じ存在(もの)は一つとして存在しない。それが酷く悲しかった。

『さよなら、みんな』

 一筋の涙が少年の白い肌を滑る。それが悲しみによるものなのか、それとも別の感情によるものか、ルーア自身にも分からない。
 けれど、誰かのために涙を流す、それこそが心がある証だとあの人は言った。

 『ルーア』は確かに作られたものだ。けれどこの心は、決して作られたものじゃない、紛いものなんかじゃない。今ならそう、胸を張って言える。



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あきゅろす。
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