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ルカディア
試験内容
「出来ました」

「では君の試験を兼ねた依頼だが、少し特殊なものを頼みたい」

 書類を書くこと約十分。出された書類は本当に必要最低限のことだけで、直ぐに書き終わってアーヴィンに渡す。
 書類を受け取ったアーヴィンが差し出したのは一枚の紙だった。冒険者組合のクエストボードに張り付けられているのと同じものだ。
 
 冒険者のランクによって受けられる依頼に違いがあり、紙に引かれたラインで区別出来る。
 しかしこれには何のラインも引かれていなかった。試験を兼ねた依頼であるからだろう。
 紙を受け取ったルカは依頼内容を見て目を見張った。ルカの肩からそれを見ていたアルは無言。

「依頼書を見て貰えば分かるが、この街とデウス村の中間に位置するアルセニスと言う山に一体の竜が住んでいる。しかしここ最近、彼の様子がおかしいらしい。話を聞こうにも、そう都合良く声を聞く者(ドラグナー)などいない、そう言う理由で見送られてたんだが、君なら可能と判断してね」

 ある意味ではこの依頼がルカに回ってくるのは当然だろう。冒険者はそれほど星の数こそいるが、竜と心を通わせる声を聞く者(ドラグナー)などそう都合よくいない。
 竜はこの世界では人の隣人とされる生物だが、幼い頃からアルと接して来た彼には人が無意識に持つ竜へ恐れがない。
 
 ルカにとって竜とは人間と同じであり、深い知性を持つ彼等より心ない人の方がよっぽど怖いのだ。
 本来ならいくら声を聞く者だとは言え、こんな年端もいかぬ少年を竜のもとに行かせるのは無謀もいいところである。しかし彼の実力なら心配ないと判断したし、同行者もつけるつもりだった。

「もし危険だと判断したら即座に戻ること。それと一人、ギルドの冒険者が同行する」

「分かりました。やらせて下さい」

「そいつの同行は俺がする」

 アーヴィンから依頼書を受け取り、ポーチに入れたその時である。入口の方からこちらに誰かが歩いて来る。
 まだ若い二十歳前後の青年だった。背中の半ば程まで伸びた艶やかな漆黒の髪、切れ長の瞳はアメジスト。目鼻立ちは整っているが、浮かべる不敵な笑みと聞こえた口調から上品とは言い難い。
 白いシャツ以外は上着もズボンも黒であるため、まるで闇に溶けてしまいそう。

「い、イクセ! どうしてお前がここに!? いや、それはこの際どうでもいい。お前ほどの奴が同行する必要はないだろう!」

 何故かアーヴィンが慌てた様子でルカと青年の間に割って入った。どうやらイクセと呼んだ彼と知り合いのようで、随分動揺しているようだ。
 ルカは腰に差した二振りの剣が気になった。一本は普通の長剣。だが艶やかな黒塗りの鞘に納まったもう一本は僅かに反りがある。
 普通の剣ではない。父に教えてもらった。確か刀、と呼ばれる剣だったはず。



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