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ルカディア
もう嫌だから
「アル?」

 不思議に思ったルカが声を掛けるが、彼は答えない。何かを考えるように沈黙を守っている。やがて、

『風天、隠蔽と防御結界、蒼穹は幻術を。紅蓮と豊穣は私と共に』

 唐突に言ったアルはルカの肩から降りる。突然の行動にルカやイクセ、ゲイルは訳が分からずにいた。それに対して、始竜たちは皆理解しているらしい。

 隠蔽と防御結界、そして幻術とは穏やかではない。
何かが起ころうとしているのだ。彼らが何をしようとしているのかはまだ分からないが、ルカは咄嗟にアルの体を掴む。
 アルの声はいつも以上に真剣で、きっと何かあるのだ。
 けど、もう放って行かれるのは嫌だから。そんな思いがルカの中にあった。

「待って! 俺も一緒に連れて行って」

『ルカ……分かった。イクセル、ルーアハ、お前達はゲイルや風天たちと留守番しておけ』

 イクセが抗議の声を上げかけるが、その瞬間、ふわりと体が宙に浮く浮遊感。
 気付けばルカは人の姿となったアルに抱えられ、街の上空にいた。風が少しだけ冷たい。傍らには紅蓮と黄金の翼を広げたリオンとアティの姿もある。

「わわっ!」

「随分動きが早いな。こっちとしてはもう少し遅い方が助かるけど」

 面倒臭そうに、あるいは、投げやり気味にリオンが呟く。彼の視界の先には無数の影。それは正しく竜の群だった。少なく見積もっても二十体はいるだろうか。彼らが本気を出せば軽く王都を吹き飛ばせるだろう。

 強大な力を持つ竜族。彼らが敵に回れば現在の人に抗う術はない。……滅竜歌さえなければ。
 ルカを抱えたまま、アルが月を思わせる金色の瞳を彼らに向ける。すると先頭を飛んでいた竜が一歩前に出た。竜たちの中心的存在だろう。彼、もしくは彼女にアルは言う。

「そこで止まって貰おう」

『何者だ?』

 アルの声に応えたのは、赤い鱗の竜である。リオンのような燃え盛る炎の色ではない。乾ききった血を思わせる赤黒い色。刃を思わせる瞳は鋭い鳶色で、溢れる殺気を隠そうともしない。

 竜は三人の背から広がる翼を見て、アルたちが同族だと気づいたのだろう。
 しかしアルやリオンから感じる力に無意識に体を強張らせる。漏れ出す力に怯えているのだ。アルもリオンも、アティも長い時を生きる竜。彼らが秘める力は強大。

「若造如きに名乗る名はないと言うところだが、教えてやろう。私は白銀の君、後ろが紅蓮と豊穣だ。そこまで言えばお前たちに刻まれた記憶が知っているはずだ」

 凛とした声だったが、ルカはアルの僅かな声の変化に気づく。少しだけ機嫌が悪い。ルカはただ、竜たちの会話に耳を傾けることしか出来ない。
 アルが二つ名を口にした瞬間、竜たちの間にざわめきが広がる。先頭の竜は声さえ上げなかったが、驚愕の眼差しで三人を見つめていた。



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