[携帯モード] [URL送信]

ルカディア
エスメラス王国
 エスメラス王国はテゲア大陸でも一、二を争うほど大きな国である。当然、王都はルカが今まで目にしたどの都市よりも大きかった。アルストロメリアやルシタニアでさえ、王都には及ばない。人の波に酔いそうである。
 露店では威勢の良い声が飛び交い、飲食店も実に賑わっている。活気は十分にあるだが、どこかぎこちない。

 例の噂の影響だろうか。エスメラス王が竜狩りを行っていることは既に大陸の殆どに知れ渡っていた。それに比例するように武装した者たちも多く、物々しい雰囲気を漂わせている。

 城下町ということだけあり、道端には様々な露店が開かれており、野菜から雑貨まで一通りのものが揃う。売られている青果は全て新鮮なもので、それだけでエスメラス王国が潤っていることが分かった。
 ルカの故郷、エランディアでは生鮮食品は貴重で中々手に入らない。仮に手に入ったとしてもそれなりに高価だ。

 それも当然である。生鮮食品は保存が難しく、貯蔵も難しい。魔歌で劣化を緩やかに出来ない訳ではないが、限界があるし、熟練者でなければ難しい。それが店頭に並んでいるということは、それだけエスメラス王国が裕福だということだ。とても数年前までは内乱で荒れていたとは思えない。

 郊外までアルに乗って移動した一行が王都に辿り着いたのは、日も高くなった昼に近い時刻。待ち合わせ場所は冒険者ギルドと決めているため、迷うことはない。イクセがギルドの場所を知っているからだ。

「こいつら、オレたちがリード君から聞いたのと同じで、噂を聞きつけて来たってか?」

 リオンの炎を思わせる髪やアティのやや奇抜とも思える格好はかなり目立っているが、道行く人々が気付くことはない。皆、何事もないように通りすぎていく。流石にこのメンバーでは目立つ所の話ではないので、アルが力を使って気付かれないようにしているのだ。

 ルカも初めて見る大都市に浮かれていたが、そうも言ってられない。
 エスメラス王が竜狩りの危険性を理解していないはずがない。竜が本気になれば人の都市を吹き飛ばすことなど造作も無いからだ。

「物々しい雰囲気だよね」

「冒険者も割りといるな。見知った顔もあったぜ」

 ルカの隣を歩くイクセはすれ違う人々を見ていたらしい。やはり冒険者の数が多いようである。
 中堅である『赤』は勿論のこと、実力者とも言える『青』の冒険者もちらほらと。中にはイクセが仕事を共にした冒険者もいた。

「ね、あれってゲイルさんたちだよね?」

 ルーアが指差した先――冒険者ギルドの前にいるのは緑の髪の男と、コバルトグリーンの髪の女性、晴れ渡った空と同じ青い髪の青年に、灰色に近い銀の髪をした女性、そして彼女の肩には燃え盛る炎を思わせる鳥がいる。ここからでは顔は見えないが、ゲイルたちに違いない。

 彼らも彼らで実に目立つ面々ではあるが、四人の姿は見事に周囲に埋没していた。ゲイルたちもまた、ルカたちのように『力』を使っているのだろう。

「おーい、みんな!」

「ルカ様、ご無事でしたか」

 柔らかな笑顔を浮かべたゼフィが迎えてくれる。ウィスタリアもイシュリアも珍しく笑顔だったが、ゲイルだけはその後ろで、どこかばつが悪そうに頭を掻いていた。ルカもルカでゲイルに何と声を掛けていいか分からない。
 意識すると余計に駄目だった。頭が真っ白で何も考えられないのだ。

 その時、ルカの肩に乗っていたアルがぴくり、と動いた。金色の目を街の外に向け、じっと何かを見据えている。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!