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ルカディア
甲斐性なし
「俺に聞かれてもな。俺は人でお前は竜だ。よく考えろ」

「……はい。申し訳ありません」

 ゲイルの切れ長の瞳がゼフィを映す。ゼフィの髪とはまた違う、鮮やかな緑の瞳。その瞳には不安そうな自分の姿が映っていた。彼のいう通りだ。
 ゲイルは人でゼフィは始竜。彼に答えを求めるのはお門違いというもの。
 それに生きた年数だけを言えば、ゼフィは軽く彼の十倍以上を生きていることになる。

「いいか、ゼフィ。始竜だとかそんなのは関係ない。大事なのはお前がどうしたいか、だ」

 ゲイルは項垂れるゼフィの顎を掴み、無理矢理こちらを向かせた。『造られた』存在である始竜と言えど、意思がある。美しいだけの人形ではない。

 大事なのは、ゼフィがどうしたいか。ヴァイスファイトを止めたいのか、それとも始竜としての使命に従うのか。こればかりはゲイルが決めることではない。ゼフィ自身が選択しなければならないこと。

 誰も彼女の助けにはなれない。こうしろ、と言うのは簡単である。
 だがそれではゼフィのためにはならないからだ。突き放す訳ではないが、信じているからこそ、ゲイルはゼフィに自分で答えを出して欲しい。
 そっと手を離し、ゼフィの頭を撫でる。彼女は嫌がらなかった。

「は……い」

 消え入りそうな声で頷き、ゼフィは俯いた。ヴァイスファイトを放置することは出来ない。 けれど彼を止めるということは、禁忌である大きな世界の流れに干渉することに違いないのだ。いや、その流れを作り出したのもまたヴァイスファイトである。

「おいおい、そこまで気落ちするなよ。ゼフィ、お前も飲むか?」

 沈んだ様子の彼女を見て、ゲイルは子供のように笑う。かと思えば目の前でグラスを揺らし、酒を勧める彼が可笑しくて、ゼフィも思わず笑みを零した。

「人の酒では酔えません」

「そうだったな」

 ゼフィにぴしゃりと言い返されても、ゲイルは気にもしなかった。
 竜族は酒を飲んでも酔うことは無い。人の酒は竜には弱すぎる。ゼフィとて飲めない訳ではないが、今は眠りについているエクレールのような酒豪ではない。

 竜族が人の酒では酔わないことはゲイルとて知っているはず。恐らくは彼なりの気遣いだったのだろう。

「……本当にそのくらいの甲斐性、ルカ様にも見せてあげて下さい」

 ゼフィはどこか批難するような眼差しで相棒を見上げた。ゲイルは粗暴にも見えるが、こう見えて実に他人想いである。

 それなのに何故か息子に対しては本領を発揮できないらしい。それは一番辛い時、側に居てやれなかった後ろめたさによるものだが、今のままではゲイルもルカも辛いだけだ。
 決してルカを思っていない訳ではない。彼はとても不器用だから。予想外もしないゼフィの手痛い一言に、ゲイルは困ったように笑った。

「それは言わない約束だろう?」



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あきゅろす。
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