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ルカディア
ゼフィの迷い
 琥珀色の照明が店内を照らしている。カウンター席の端に腰掛けたゲイルは酒を呷っていた。隣にいるゼフィは途中まで何杯か数えていたが、一時間ほど前に数えるのを止めた。ゼフィの相棒はかなりの酒豪だ。
 アルコール度数の高いものを飲んでいるようだが、全く酔った様子は無い。寧ろ平然としている。

 アルからの連絡を受けた彼らは一足先にエスメラスに入った。後はルカたちを待つだけ。
 ウィスタリアとイシュリア、そしてフィーは情報を集めると言って宿屋を出た。ゼフィはと言えばこの仕方のない相棒のお守である。これでも一応は相棒だし、放っておくことは出来ない。呆れながらもゼフィはゲイルから離れられないのだ。

「どう思う? ゼフィ」

 グラスを片手に唐突にゲイルが口を開いた。酒場には二人以外、客の姿は無い。バーテンダーは離れた場所でグラス磨きをしているため、話を聞かれる心配はないだろう。例え聞いていたとしても問題はない。

 主語がないため普通なら分からないが、そこはゼフィである。彼が何を言いたいのか、彼女はちゃんと理解していた。

 アルから聞いたある噂。エスメラス王に取り入った人物、そして竜狩り。取り入った人物はヴァイスファイトに間違いないだろう。
 現に王都は噂のお陰で物々しい雰囲気に包まれている。冒険者も多いし、ぴりぴりしているのだ。

「罠に違いありません。噂が広がるのが早すぎます。意図してとしか……」

「例え罠だとしても俺たちは飛び込むしかない。手をこまねいている訳には行かないからな。野心深い王なら尚更だ」

 ヴァイスファイトが何を思ってこんな行動に及んだのか、ゼフィには分からない。
 しかしこれは罠だ。自分達をおびき寄せるための。でなければこうも早く噂は広まらない。ゲイルの視線は相変わらず、グラスの中に注がれた琥珀色の液体に向いている。

 そうなのだ。これが罠だとしても、選べる選択肢はそう多くない。ゼフィたちが止めなければ、彼は竜を殺し続けるだけ。自分たちが姿を現すまで。

 一度力を手にしてしまえば簡単には手放せない。人を凌駕する力を持つ竜を殺戮出来るほどの力となれば尚更だ。力に酔ってもおかしくはないはず。野心深い王なら尚更。
 始竜が世界に干渉することは許されない。許されないが、このままではかつて始竜であった存在が引き金となり、再び人と竜の戦が起こってしまう。

 千年前の悪夢の再現。その悲劇だけは決して繰り返してはならない。多くの命が失われるだろう。人も竜も。かつて戦いにより疲弊した二つの種族は滅竜歌の存在を秘匿とした。今回もそうなるとは限らない。
 ゼフィは迷っていた。心の中で降る雨は未だ止まない。

「ゲイル様、私は……私はどうすればいいのでしょう?」

 ゼフィはウィスタリアに続く若い竜で千年の時を生きてはいない。受け継いだ記憶は膨大だが、それは彼女自身が直接体験したものではないため、何が最善なのか彼女は判断し兼ねていた。

 知識だけあっても意味が無いのだ。始竜は世界に干渉してはならない。それは分かっている。でも納得出来ない。どれだけ考えても堂々巡りで、出口の見えない迷宮を彷徨っているかのよう。



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