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ルカディア
不穏な噂
「どうして……」

 自分の名を知っているのだろう。情報屋とは聞いたが、そう簡単に分かるものなのだろうが。冒険者なのだから不思議なことではないかもしれない。
 けれど、ルカはイクセのように名を知られるほどの冒険者ではない。不思議そうに自分を見るルカに、リードは片目をつむって笑ってみせた。

「ちっちっち。小夜啼鳥を嘗めて貰っちゃあ、困る。君の名前は有名だよ。何せイクセル・クラインの連れだし。珍しい銀色の竜を連れた少年ってね」

 ルカが知らないところで彼の名前は有名になっていたのだ。珍しい銀色の竜を連れており、並の魔奏士以上に魔歌を操る少年。それに加え、紫の《黒呀》が気に入り、行動を共にしているとなると注目されない方がおかしい。
 ただでさえ、イクセは他人と行動を共にすることが少ないのだから。

『銀色の竜ではない。私にはちゃんとした名がある。それより“竜狩り”について話してもらいたいものだな』

「ごめんね、アル君。ただまだ君から直接名を聞いてなかったから、勝手に呼ぶのも失礼かなって。でも見つかって良かったよ」

 やや不満そうなアルの声に、リードが人好きのする笑みを作ったまま、何気なく答える。そう、普通に答えたのだ。竜であるアルの声に。
 竜の声を聞くことが出来るのはドラグナーだけ。つまり彼は紛れも無くドラグナーということだ。

「ふぅん。声を聞く者(ドラグナー)、ね。ルカほどじゃないけど、人にしては強い力だ」

「そだよ。そっちのルーア君はルシタニアで会って以来だね。ってお兄さんと……お姉さん? 誰?」

 口を開いたのは今まで黙っていたリオンだ。彼はワインレッドの瞳を細め、まるで値踏みするようにリードを見た。隣のアティは相変わらず微笑んでいる。

 リードはルーアを見て微笑んだ後、リオンとアティを見て首を傾げる。小夜啼鳥の二つ名で呼ばれる彼も、流石にリオンやアティのことは知らなかったらしい。お兄さんはリオンでお姉さんはアティに違いなかった。
 リードの話からすると、ルーアと彼は会ったことがあるらしい。ルシタニアでアルの情報を集めたいた時、会ったのだろうか。リードは先ほど見つかって良かったと言った。それはアルのことなのか。

「えっと、こっちがリオン兄であっちがアティ兄ね」

「えっ! そこのお姉……じゃなくてお兄さんだったんだ。あ、すっかり本題から逸れたけど、竜狩りねえ。何でもここ最近、エスメラス王に取り入った輩がいるらしいぜ。でも意図的だな、この噂はさ」

 リードはまじまじとアティを見つめた後、信じられないのかもう一度視線を向けた。
 『竜狩り』、という物騒な噂が流れたのはここ数日の話だ。どうやら現国王に取り入った人間がいるらしい。その人物が竜狩りの指揮をとっているらしいのだが、明らかに噂が広がるのが早すぎる。

 人の口に戸は立てられないとは言ったものだが、意図的に広めてるとしか考えられない。でなければ僅か十日ほどでここまで噂が広がるはずがないのだ。

『エスメラスか……あの国は昔から飽きることなく戦い続けているな』

 アルは金色の目を細めてため息をつく。
 エスメラス王国はここより東に位置する王国で強大な軍事力を持つ国である。抱える魔奏士たちも多く、ここ最近まで骨肉の争いが繰り広げられていたらしい。

 新たに即位したエスメラス十六世は野心深い男としても有名で、兄たちを暗殺して国王の地位についたとはもっぱらの噂である。
 その噂が真実かどうかは分からないが、最悪の事態を想定せねばならないだろう。



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あきゅろす。
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