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ルカディア
安らぎの旋律
「えー……と。これは何なのかなぁ?」

 ルカは目の前の光景に言うべき言葉を見つけられるずにいた。
 やんややんやと繰り広げられる乱闘騒ぎ。空中を無数の皿が舞い、酒瓶が飛ぶ。第三者が見れば何の祭りかと勘違いするだろう。

『私に聞くな。知るわけがないだろう』

 肩に乗るアルに尋ねると、そっけない答えが返ってくる。真面目に答える気もないのか、体を丸め、瞳を閉じていた。話しかけるな、ということらしい。
 腕に包帯を巻いた隣の男性が頭に手を当て、呆れたようにあるいは情けないと言った感じでため息を付いた。

「すまない。乱闘騒ぎは滅多にないんだがな」

 ルカが助けた彼はアーヴィンと名乗り、聞く所によると、アルストロメリアの冒険者組合(ハンターズギルド)、通称ギルドの受付らしい。
 病院に付き添った後、ギルドまで案内して貰ったのだがこの有様である。皆、ルカやアーヴィンに見向きもせずに皿や料理を投げ合う始末だ。

 刹那、飛んで来た何かが、べしゃり、とアルの顔に激突した。原型を留めていないため、分からないが、パイ生地と肉から恐らくミートパイらしい。

『……ふふふふ。あはははは。面白いぞ人間共。たわけが。私に喧嘩を売るなど二千年早いわ!』

 金色の瞳を開き、不敵に笑ったアルは肩を震わせている。ミートパイ塗れになったことが相当嫌だったようだ。
 しかしながら、竜である彼が本気で怒ればギルドどころか、この街が壊滅してしまう。
 よもや本気ではないだろうが、滅多に冗談を言わないアルである。テーブルにあったタオルでアルの体を拭きながら、ルカはアルを宥めにかかった。

「ま、まあまあ。落ち着いて。ようはこの乱闘を止めさせればいいんだよね?」

「しかし、こうなれば俺でも簡単に止められないぞ」

 アーヴィンも困ったように頭を掻いている。
 冒険者(ハンター)は血の気が多い者が大半らしく、止めろと言われてはいそうですかと止める奴がいるはずがない。
 そもそも言われて止めるなら乱闘など起こっていないはずだ。

「大丈夫、大丈夫。俺に任せてよ」

 魔歌は何も戦闘だけに使う訳ではない。ルカは任せてよ、と笑うと、息を吸い込み、歌いなれた旋律を口にした。

『星歌う、愛しい子らへの子守歌。その歌は母なる調べ、全てに通ずる安らぎの旋律(おと)。星が奏でし原初の調べが染み渡る。遥かな詩は世界に響き、世界は歌に満たされる。優しき音色を知るならば、今導きの声に応えよ――潮騒』

 それはまるで水晶を打ち鳴らしたかのように透明で澄んだ歌声。
 美しい歌声に毒気を抜かれた者たちは次々に乱闘を止め、たおやかな歌に聴き入った。
 この魔歌は本来なら対象を眠らせるものなのだが、興奮している者には効果がない。
 だが乱闘を止めるには十分だろう。現に冒険者たちは固まったまま、互いに顔を見合わせている。気の抜けた冒険者たちを見たアーヴィンがすかさず声を張り上げる。




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あきゅろす。
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