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ルカディア
魔奏士
「大丈夫ですか!?」

『心配ない。傷は見た目ほど酷くはないぞ』

少年は、安心して思わず座り込んだ男を心配そうに見つめる。少年の肩に乗った何かが鳴き声を上げた。
 銀色に煌く鱗を持つ竜。竜の鳴き声を聞いた少年、ルカはほっと胸を撫で下ろす。

「あ、ああ。君は魔奏士(シンガー)なのか?」

 竜族が扱う喪歌(ロストアリア)を簡略化させた魔歌(スペルアリア)を操る者。
こんな年端もいかぬ少年が男を救ったのだ。

「はい。俺はルカと言います。すみません、少し傷の具合を見せてください」

 男は頷き、黙って傷を見せる。見ず知らずの少年に傷を見せるなんて正気の沙汰ではないが、この少年は間違いなく男を救ったのだから。
 命に関わる傷はないし、殆どが擦過傷だ。だが右腕の傷はかなり深い。魔物の牙の跡だろう。
 ルカは傷口に掌を翳すと、意識を集中する。

『……救いを望み、全ての子らの安息を願う。遥かな詩は世界に響き、世界は歌に満たされる。切なる祈りを知るならば、今導きの声に応えよ――治癒』
 
「あくまで応急処置ですから必ず医師にみせて下さい。絶対ですよ」

 紡がれた魔歌と共に、とめどなく流れていた血が止まる。傷は大方塞がったが、自然治癒力を促進させたに過ぎない。
 完全に治すことも可能である。しかしそれでは体に負荷が掛かるのだ。

「あの、ところでアルストロメリアってどう行けばいいですか……?」

 街道を歩いていた二人だったが、血の臭いがする、と呟いたアルにルカは急いで駆け付けて来たのだった。
 そのためどの道を来たのかまったく覚えてない。怖ず怖ずと尋ねるルカに男は快く頷いた。




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