アルカディア
めげない彼
竜笛とは違うがそれに良く似たもの。竜族が自身の一部を使い、作り出したものには力が宿るとされている。始まりの時より生きるアルが牙より作ったルカの魔剣、ジークルーネはヴァイスファイトの拘束を破ってみせた。たかが鱗と言っても、強大な力を秘めているのだろう。つるりとした手触りの鱗を受け取り、ゲイルは懐に仕舞った。
「それを持っていれば、いかなる時でも私と繋がることが出来る。何かあれば連絡が欲しい」
警戒するにこしたことはないが、ヴァイスファイトとて一筋縄ではいかない相手。自分たちを泳がせて仕留める気かもしれない。
確かにアルたち始竜は互いに繋がっているが、ウィスタリアのように命の危険に晒されでもしない限り、自分たちにはそれを感じることが出来ないのだ。
しかし鱗など強い魔力を秘めた物を持っているなら別だ。竜笛が持ち主の危機を伝えるように、アルの鱗を持っていれば、いかなる時でもアルと繋がることが可能なのである。
「あ、オレはいい。レインたちにお世話になるから」
「え、リオン兄も来るの?」
あ、と声を上げたのはリオンで、彼の発言に一番驚いたのはルカだった。イクセとルーアは半ば予想していたようで、アルはと言えば頭に手を当て頭を振った。
非常に嫌そうだが、そんな表情をしても彼の美貌が損なわれることはない。むしろ怒った顔も綺麗だと思えるのだから不思議だ。
「じゃあ、ぼくもご一緒させてもらおうかな? 勿論、邪魔じゃなければ、だけど」
次に口を開いたのは、そんなルカたちを見ていたアティ。はい、と手を上げ、にこにこと笑うアティの考えはまるで読めない。
アルやリオンに次いで長い時を生きる始竜だと聞いたが、ウィスタリアやゼフィの方がよほど年上に見える。アティ自身の性格と身に纏う雰囲気のせいだろうか。
勿論、ルカに依存はない。ルカが皆はどう、と尋ねると、
「リオンを止めて、アティでいいんじゃないか? なあ、アル」
「そうだな。私もその方がいい」
なあ、と何気にとんでもない発言をするイクセに、アルも即座に同意した。イクセがリオンを見る瞳は彼にしては少しだけ冷たい。たまに冗談を言う彼だが、今回ばかりはルカも本気なのか冗談なのか分からなかった。
そこまで考えて、ある考えに行き着いた。イクセはリオンを慮っているのではないか。
イクセの顔は人の姿となったヴァイスファイトと瓜二つ。そばにいれば、どうしても彼を思い出してしまうだろう。
千年前、リオンはアルや理想郷と人々と共に、ヴァイスファイトを滅ぼした。
だがリオンとヴァイスファイトの間にはそれだけではない何かがある。それは彼らの態度から窺い知ることが出来たし、普段はおちゃらけていても、リオンがただ軽いだけの人物ではないとイクセも分かっていた。
そしてアルも。表面上は冷たくても、実は面倒見が良い彼もまた、リオンを案じているのだろう。
「うっわー、二人とも容赦ないね」
「いやー、二人ともそんなにオレから離れたくないって? そこまで言われちゃ行くしかない」
ルーアも楽しそうに見えるのはルカの気のせいか。素直ではない二人を笑っているのだろう。例えリオンを案じていたとしても、アルもイクセも素直にそれを表に出すような者たちではない。
リオンはそんな二人の気遣いを知ってか知らずか、照れたように笑っている。
「言ってない」
「言うわけないだろう」
即座に仏頂面になったイクセと不機嫌そうなアルの鋭いつっこみが返って来た。リオンを心配しているとは思えない二人に、ルカはあれ、と首を傾げる。
もしや本当に嫌なのだろうか。段々不安になって来て頭を掻く。アティは相変わらず柔らかな笑みを浮かべており、仲が良いのか悪いのかよく分からない彼らを見つめていた。
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