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ルカディア
誓約の炎槍
 完全に油断していた。男は悔し気に唇を噛んだ。
 右腕からは血が滴り、感覚も無いに等しい。傍には自分が倒し、息絶えた数体の魔物が転がっている。

 おかしい。これまでなら魔物が街道で人を襲うことは少なかったはず。こんな事なら一人でも連れてくればよかった。
 だがそれももう遅い。狼に似た魔物が男を取り囲んでいた。一匹や二匹ではない、数が多い。もう少し少なければどうにか出来ただろうが、今の自分では無理だ。

 どうにか活路を開こうと剣を構えた直後、声が聞こえた。淀みなく、滑らかに紡がれる旋律。歌なのだろうか。

『揺らめく光は黄泉への導、逆巻く炎は断罪(つみ)の槍。其は誓いと祈りを知り、猛き焔の旋律(しらべ)へと誘う。朱は制約、血は誓約(ちかい)。己が力を知り、魂を織(し)る。無垢なる願いは届くことなく、果てなき天へと響くのみ』

 その歌は何よりも澄んでいて、綺麗な歌だった。男が見上げると同時に飛来した短剣が魔物の眉間を穿つ。
 まだ若い、十代も半ばの少年だった。水の色とも空の色ともまた違う透き通った青い髪、黒掛かった深紅の瞳は男にしては少し大きい。中性的な顔立ちの彼の肩には、ちょこんと銀色の何かが座っていた。

 男に跳びかかろうとしていた魔物の体を少年が投擲した短剣が貫く。ぎゃう、と悲鳴を上げてのた打ち回る狼。

『遥かな詩は世界に響き、世界は歌に満たされる。掲げた約束(ちかい)を知るならば、今導きの声に応えよ――誓焔槍』

 少年が掲げた手を囲むように描かれた複雑な真紅の紋様。魔物の身を撃ち貫いた灼熱の炎槍は、狼の体を灰すら残さず焼き尽くす。
 呆然とする男の前に少年が駆け寄って来た。



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