アルカディア
腑に落ちない事
「これで揃ったようだ」
「ならば早速、本題に入ろう」
皆を見回してウィスタリアが言った。ルカとイクセ、ルーアにゲイル、そして始竜たち。まだ眠りについている竜を除けば全員が揃った事になる。
ウィスタリアの言葉を継いで口を開いたアルに、ルカを含めた全員が頷いた。アルとリオンが他の始竜たちを集めたのは他でもない。かつで暁闇の君と呼ばれた始竜、ヴァイスファイト=グラフ=ノスフェラートについてだ。
まずアルの話は滅竜歌により始まり、ウィスタリアのこと、それを操る人間にヴァイスファイトの魂が宿っていることで終わった。勿論、イクセのことも含めて、である。
「そう、ファイが……確かに誰よりも熱心な子だったけど。……悲しいね」
始めに口を開いたのはアティだった。眠っている間も感じていた嫌な気配。あれは世界の歪みだったのかもしれない。
滅竜歌はこの世に存在してはならぬ歌。そしてヴァイスファイトもまた消え去るのが道理。肉体を失った彼はもう始竜ではないのだ。言うなれば亡霊。
不完全とは言え、滅竜歌を受けたウィスタリアを心配してアティが尋ねる。
「きみはもう大丈夫?」
「万全とは言えないが、問題はない」
ウィスタリアの体力、魔力共に八割方回復していた。傷を受けた時の処置が的確だったことと、始竜が持つ再生能力のお陰である。
だが滅竜歌は竜を滅ぼすための歌。影響が出ないとも限らない。
それきり、誰も喋ろうとはしなかった。険しい表情のアルとリオンに悲しげに顔を伏せるゼフィ。ルカやイクセ、ルーアも何を言っていいのか分からなかった。
「そのヴァイスファイトの目的は始竜を殺す事だろ? 滅竜歌って便利なものがあるなら、どうして仕掛けてこない? 今なんて絶好のチャンスだろ」
誰もが押し黙る中、口を開いたのはゲイルだった。彼が言ったことはあながち間違いではない。始竜でさえ滅ぼせる滅竜歌があるのなら、何故すぐに仕掛けてこないのか。
アル達はヴァイスファイトを害す事は出来ないが、彼は違う。始竜という肉体から解き放たれたヴァイスファイトは始竜を殺せるはずだ。
そこでルカは気づく。青年がヴァイスファイトだと分かった時、リオンは青年に向けて喪歌を使った。リオンたちは彼に攻撃出来ないのではないのか。
「あ、でも、ちょっと待って。あの時、リオン兄攻撃してなかった?」
「いや、あれは直接攻撃したわけじゃない。あくまで動きを封じただけだ。傷一つないだろうな」
リオンは苦笑しつつ、首を横に振る。あの時、使った喪歌はヴァイスファイトを直接攻撃するものではなかった。足止めのために彼を炎の檻に閉じ込めただけ。それだけでは彼を殺せない。
ヴァイスファイトは傷ひとつないだろう。
「ということは直接攻撃は出来ないけど、間接的になら傷つけることが出来る、ってこと?」
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