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ルカディア
馬が合わない二人
「父さんってあのゲイル・エアハートか?」

 そう言いながらイクセは目の前の男をじっと見つめた。世界でも指折りの運び屋である彼を、実際に見たことはない。噂だけは冒険者をしていればかなり耳に入って来るが、多少尾ひれは付いているだろうとは思っていた。

 依頼の成功率はほぼ百パーセント。残りの数パーセントは彼自身が気に入らない依頼を蹴ったものである。
 しかしこうして会ってみればその噂も尾ひれがついたと言うより、その通りなのだろう。

「あんまり似てないね。ルカ兄とお父さん」

 ルカとゲイルを見比べていたルーアが呟く。
 確かにルカとゲイルは似ていない。あんまりというか全然である。髪の色も目の色も違う。精悍な顔立ちのゲイルと比べ、ルカは似ても似つかない中性的な顔立ちだった。

 それだけではなく、纏う雰囲気も正反対だし、似ているところを見つける方が難しい。

「ルカは母親似だからな。それにしても久しいな、風天。付け加えるのならお前もだが、ゲイル」

「その射るような視線は止めろって。お前、オレに恨みでもあんのか?」

 ルカは母であるシルフィアと瓜二つだった。透き通るような青い髪や夕焼けを切り取った茜色の瞳、顔立ちさえも。だからこそ、ゲイルは妻を亡くしてから家に寄り付かなくなり、今も上手く接する事ができない。彼に妻の面影を見てしまうから。

 アルはそれを不甲斐ないと思いつつ、ある意味では仕方がないと分かっていた。父親として決して褒められたことではないが、彼の気持ちが理解出来ない訳ではない。

 アルはゼフィなる人物を見た後、永久凍土よりも冷ややかな瞳でゲイルを見た。そこには一切の慈悲も無い。
 しかしゲイルは普通なら縮み上がりそうな視線を平然と受け止めている。ゲイルの空気を読まない一言にアルの顔が更に不機嫌の色を帯びた。見ていて分かるように、アルと父は馬が合わないのだ。

 ならば会話をしなければいいのだが、それはアルの気が済まないらしいので、会えば決まってこんな感じだった。

 いつも通りのやり取りに、ルカは口を挟むこともしない。いつものことだからだ。
 リオンはそんな二人を笑いながら、イクセとルーア、ウィスタリアやイシュリアは驚いてアルを見つめている。アティはと言えば、にこにこしながらアルとゲイルを見ていた。

 そこでルカははた、と気付く。父がいるということは、彼女はもしや……。

「あ、ゼフィってもしかしてゼフィロス?」

「はい、お久しぶりです、ルカ様。私はこの場に集まりし皆様と同じ始竜。名は風天の君、シルフィード=ウィンディ=ゼルフィロス。今まで黙っておりまして、申し訳ありません。ゲイル様の指示でして」

 ルカの声にサンシャインイエローの瞳を細め、彼女は笑った。竜である時と同じ、たおやかな声。
 ゼフィの柔らかな笑みはルカに母を思い出させる。母のことは殆ど思い出せないが、きっと彼女のような女性だったのだろう。

 申し訳なさそうに頭を下げる彼女にルカは慌てて首を振った。自由奔放な父の考えはルカにだって分からない。ゼフィがわざわざ謝ることではないのだ。

「じゃあ、父さんがいるのは……」

「私が呼び出したからな。この男にも知らせる必要がある」

「オレたちのこと知ってるから、だな」

「ああ。ゲイルは私とルカが出会う以前より、風天と付き合いがあったからな」

 非常に不本意であるとアルの表情が物語っていた。
 だがそれはリオンと相談して決めたこと。
 ゲイルの相棒、ゼフィと彼の付き合いは長い。彼が妻であるシルフィアと出会う以前より行動を共にしているのだ。それに加え、この男は並外れた洞察力と直感を持つ。アルが普通の竜ではないとゲイルは直ぐに気付いたのだった。



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