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ルカディア
風に愛されし者達
 その時、ルカたちを見守っていたアティは弾かれたように顔を上げる。銀に輝く水晶の向こうに見えた人影。それは一人ではなかった。アティの口からこぼれ落ちた名。

「ゼフィ」

「……来たか」

 頷いたアルの表情はやや硬い。それがゼフィなる人物に向けられたものではないことを数秒後にルカは知ることになる。煌く水晶のお陰ではっきりと見えないが、始竜たちやルーアは見えているらしい。
 次の瞬間、若い女の声が響いた。

「遅れて申し訳ありません。少々手間取りまして」

 巨大な水晶の影から現れたのは二人の男女。
 女の方は二十歳前後だろうか。日の光を思わせる美しい双眸に、左右で結わえたコバルトグリーンの髪はエメラルドのように鮮やかで、思わず見惚れてしまう。

 顔立ちはまるで神の造形であるかのように整っていたが、彼女が笑うとまた雰囲気が変わる。まるで、全てを赦す聖母のように穏やかだった。彼女にはアティとはまた別の温かさがある。

 そして何より、人目を引くのはその服装。両耳に金の耳飾りを付け、全体を白と緑で統一された服は、どこかの民族衣装のように見える。両肩はむき出しで、下に行くにつれてふわりと広がる袖からは真珠のように滑らかな肌が覗く。
 感じとしてはルカが歌姫を演じる時に着せられた衣装にどことなく似ていた。

 しかしルカを何よりも驚かせたのは女性の隣にいた男。
 一見したところ三十代前半から半ばほど。いや、見方によってはもっと若々しく見える。健康的に焼けた肌に精悍な顔立ち。男の緑髪と同色の瞳は隣の彼女とも少し違う。

 彼女が濃い緑だとすれば男は、ミントを思わせる薄い緑。瞳は神秘を表す深い緑をしている。
 唯一の武器は腰に一本の剣と、服装は動きやすさを重視した簡素なものだった。引き締まった体躯から冒険者のように見えるが、冒険者を示す飾りはどこにも見当たらない。

「父……さん?」

 呆然と呟くルカに男――ゲイル・エアハートはばつが悪そうに頭をかき、諦めたように頷いた。アルの表情が心なしか硬かったのは父のせいなのだ。

 エランディアを出てから父とは一度も連絡を取ってはいない。冒険者と運び屋という世界を飛び回る職業であるため、互いに連絡を取るのが難しいという理由もある。

 いや、正直な話をすればルカは、何を報告していいか分からなかったのだ。父の愛情を疑っているわけではない。父は父なりに自分を大切にしてくれているのだろう。
 しかし、そう直ぐには普通の親子には戻れないこともまた確かである。



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