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ルカディア
解き放ってくれた存在
 現れたのはウィスタリアと彼の眷属、イシュリアだった。二人とも別れた時と同じく、人の姿をしている。
 ウィスタリアは長い蒼穹色の髪を一つに纏め、裾と袖の長い衣を身につけており、イシュリアは肩近く切りそろえられた灰に近い銀の髪に騎士を思わせる装束。

「やっほー、セレス。元気してた?」

 無言で微笑むアルとアティに比べ、軽すぎるリオンの挨拶にウィスタリアは困ったような表情になり、イシュリアは僅かに眉を潜めた。もしかして仲がよくないのだろうか。
 少なくともルカの知る彼なら、ここまであからさまに不快感を表すことはなかったはずだ。

 一見すると馬の合わなさそうなアルとリオンでさえ、付き合いが長いせいか、息はぴったりである。アティだってそうだ。

「紅蓮の君、申し訳ありませんが、その手をお離しください」

 ウィスタリアの肩に触れようとしたリオンの腕が横から伸びて来た手に掴まれる。その手は勿論、イシュリアのもの。主を護る騎士のようにウィスタリアを庇うイシュリアにリオンは苦笑した。

 離せと言われても、そもそも触れてさえいないのだが、彼女には関係ないらしい。不快感を隠そうともしない辺り、彼女も主同様若い。

 リオンにすれば挨拶なのだが、イシュリアはそれさえも気に入らないのだろう。狼と言うより忠犬だが、口には出さない。言えば間違いなく彼女を怒らせるだろうし、これ以上の面倒はリオンも御免である。

「離す前に触ってもいないけど。イシュリアちゃんはホントにセレスを護る騎士だね」

 そんなリオンにイシュリアはというと恐れ入ります、と頭を下げただけ。にっこりと微笑んだリオンを見て表情を変えないのはある意味凄いと思う。

 イシュリアの敬意を払う対象にリオンは入っていないのだろうか。とは言え、彼女に負けるリオンではない。睨み合うリオンとイシュリア。一方は見惚れるような笑顔で、もう一方は氷のように冷たい表情で睨み合っている。

「貴公も変わらないな」

 それでもめげないリオンを見て、ウィスタリアはあきれ果てるように、あるいは仕方のない子供を見るように苦笑した。
 困ったように笑う彼はリオンを嫌っているようには見えない。ウィスタリアの性格から考えると意外と照れてるのだろうか。

 ウィスタリアは視線をリオンからアルに移す。ルカの目には彼の横顔が、ほんの少しだけ怒っているように見えた。

「……本当に一時はどうなるかと思ったが、ルカのお陰だ。貴方という人は、本当に……。少しは彼の気持ちを考えたらどうだ。我が言わずとも貴公なら理解しているだろうに」

 ルカのお陰で考えられないほど、アルは変わった。ウィスタリアの知る『白銀の君』からは考えられない変化。以前の彼なら二度とルカの前に姿を現すことはなかっただろう。

 だが彼はルカの元に戻って来た。
 本当によかったとウィスタリアは思う。彼は唯一、始まりの時より生きる竜として、自分達の誰よりも使命という鎖に縛られてきた。

 そう、造られたのだと言うのは簡単だ。しかしアルはその瞳で、誰よりも悲惨な世界と悲劇的な結末を見続けて来た。

 だからこそ彼は誰よりも始竜という、使命という鎖に囚われていたのだ。そんな彼を鎖から解き放ってくれたのは紛れもなくルカである。
 アルは無言でウィスタリアを見つめていた。まるで彼の言葉を噛み締めるように。

「俺だけの力じゃないよ。俺一人ならきっと立ち上がれなかった。イクセやルーア、リオン兄、もちろんウィスタリアとイシュリアも。皆が居てくれたから」

 ルカは皆を見回して笑った。自分一人ならきっと立ち上がれなかった。
 だけど一人じゃないって分かってたから。イクセにルーア、リオン、ウィスタリアやイシュリアが居てくれたから、諦めずに頑張れた。立ち上がれた。

 こんな素晴らしい仲間たちと出会えたことに感謝したい。ルーアがそっとルカの手に己の手を重ねる。

「ううん、僕たちはほんの少しだけ力を貸しただけ。ルカ兄の力だよ」

「何たってルカだからな」

 柔らかく微笑むルーアに、イクセも同意する。ルカとアルの絆は強い。例え自分たちがいなくても、彼らの絆はきっと再び結ばれたことだろう。



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