アルカディア
私は私に誓う
彼が見ているのは、自らの金色の瞳を通して見る“世界”だった。
生きとし生ける者全てを照らす太陽の光、視界に入るのは海沿いの街道だ。いかにも穏やかな昼下がりと言った感じだが、彼等以外に旅人の姿はない。
それはひとえに魔物の存在だ。自然に住む獣とは似て非なるもの。
だがそれも彼にとっては驚異にすらなりえない。うたた寝しそうになるのを我慢し、ほんの十数年前に思いを馳せる。
永遠に近い時を生きて来た。理想郷の名で呼ばれるこの世界を見守っていた。誰にも知られるはずのない世界の果てで。
そう、あの子と会うまでは……。
人などとうに見限っていたつもりだった。だが一人の人の子がアルを変えた。
純粋に嬉しかったのだ。アルを家族と言ってくれたことが、必要としてくれたことが。
彼は『 』ではなく、“私”が生きる意味を与えてくれた。
だから私は私に誓う。此の命在る限り、お前の傍にいると。
「……ル! アルってば!」
そこまで考えた所で彼――アルトゥールは現実に引き戻された。
目の前には呆れたルカの顔がある。きっとうたた寝したと勘違いしているに違いない。名誉のために言うが、うたた寝はしていない。
金色の目を細め、訝しげにこちらを見るルカを見返す。
『言って置くがうたた寝など断じてしていないぞ』
言われる前に釘を刺しておいた。確かに寝そうにはなったが未遂である。
ルカもそれ以上、追求するのは諦めたらしい。視線をアルから話し、ポーチをまさぐる。
「ならいいけど。あのさ、アルストロメリアってこの道であってる……よね?」
ルカは腰に付けてあるポーチから地図を取り出して眺める。アルも彼につられて身を乗り出して覗き込んだ。
何分地図など普段は見ることすら無い訳で、今居る地点を把握しているのかさえ怪しいものだ。ルカたちが目指すアルストロメリアはエランディア周辺では最大の街であり、ギルドの中でも限られた、冒険者としての登録を受け付けている支部があった。
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