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ルカディア
目覚めた青年
 そこは光に彩られた空間だった。竜族の力となり、生命力となるマナに満ち溢れた空間に生える金色の魔水晶。夕暮れ前の空に地面は金色の光で埋め尽くされていた。
 金にも琥珀にも見える魔水晶は微かに光を放ち、闇の中で揺らめく蝋燭の炎のように仄かに輝いている。

 だが幻想的な光景とは裏腹に、そこには生あるものの気配が感じられなかった。不純物のない澄みきった水に生物が住めないように、一種の静謐さすら感じさせる聖域のようでもある。

 大小さまざまな水晶が存在する中で一際大きな魔水晶が、小さなクラスター状の水晶に護られるように聳え立っていた。人の身の丈ほどあるだろうか。

 小さなものとは違い、透明度が低く霞みがかったように見えないが、魔水晶の中に何かがいる。ぱきん、と鈴なりの音が響いたかと思うと水晶に大きな亀裂が入った。その音を皮切りに連鎖する乾いた音。

 刹那、今までの何よりも高い音を立てて水晶が砕け散る。魔水晶があった場所より現れたのは一糸纏わぬ人間だった。

 歳の頃は十代後半。おそらく十六、七だろう。白磁のように滑らかな裸身が薄闇の中に浮かび上がっている。その人物は中性的で整った秀麗な顔立ちをしているが、女性のように見えた。

 薔薇の蕾を思わせる唇、金色の睫毛は影を作るほどに長い。ややくせのある、銀に近い黄金色の髪は腰に届くほどだった。
 金を散らしたような琥珀色の瞳は眠そうに細められている。
 白く輝く肢体は女性のように柔かなシルエットを描いていたが、女性にあるはずの胸のふくらみはない。ということは青年なのだろうか。

 だが彼、もしくは彼女の放つ独特な雰囲気が性別を曖昧にさせていた。青年はまず周囲を見回すと、次に自分の体に目を落とす。そこで何も纏っていないことに気付くと、青年は軽く右腕を一振りした。

 次の瞬間、青年は不思議な服を纏っていた。
 ゆったりとした袖は緩やかに波打ち、ふんだんに白の飾り布を取り付けられ、両腕に結ばれたリボンが尾のように靡いている。腰には美しい刺繍が施された幅の広い帯を結んでおり、それはまるで、蝶の翅のように軽やかに見えた。

 和と洋を合わせたどこかアンバランスな、不思議な服装と言っていいだろうが、よく似合っている。青年はまだ眠そうに目を擦り、ゆっくりと琥珀の瞳を閉じる。瞑想をするように穏やかに、だがそれでいてまどろむ幼子のような無垢な表情をしていた。

 しかし僅か数秒で目を開け、何やら呟いたかと思うとその姿は跡形もなく消えていた。



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あきゅろす。
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