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ルカディア
まだ見ぬ世界
「ルカの考えることはみんなお見通しと言うことかな」

「……俺ってそんなに分かりやすいのかな?」

『だろうな。でなければここに誰もいるはずがない』

 ジェイドは笑いを堪えながらルカの方を向く。当の本人は驚いたような微妙な顔だ。
 肩に乗るアルも笑みを隠そうともしなかった。
 ルカは隠し事が上手いとはお世辞にも言えない。朝からそわそわしていれば尚更である。加えて今日は成人の儀。区切りを付けるのにもってこいの日だからだ。

「ルカ君、たまには手紙ちょうだいね。貴方が留守の間はちゃんと掃除しておくわ。いつ帰って来ても困らないように」

 ヘンリエッタはルカが黙っていたことについて何も言わない。
 送り出してくれる人がいるのは、こんなにも嬉しいのだとルカは初めて知った。薄情だと怒られてもおかしく無いというのに、皆何も言わない。
 例えどこに行こうとも自分の故郷はこの街。帰るべき場所があるから頑張れる。きっとそうなのだろう。

「ヘンリエッタさん……ありがとう」

「気にしないで。こんなことお安いご用よ」

 母が生きていたなら、ヘンリエッタのように笑って送り出してくれただろうか。
彼女は僅かに記憶に残る母のように温かくて、ルカは少しだけ泣きたくなった。

「ルカ、お前が帰って来るまでに一人前の菓子職人になるからな! アルを唸らせるくらいになってやるから期待しとけ」

 ルカ、声を掛けたのは赤掛かった茶の髪に白い調理服姿の少年。ルカの友人の一人ラルフである。 菓子職人見習いである彼は幼い頃、ラルフは一人前の菓子職人に、ルカは冒険者になると約束した仲だった。
 まだまだ一人前とは言えないが、それはルカも同じ。ラルフが一人前の菓子職人になるのなら、ルカは一人前の冒険者に。約束を忘れぬよう、心に刻みつける。

『それは楽しみだ。私を満足させてくれるのを待っている』

「アルも楽しみだってさ。でも俺も負けない。約束だからな」

 ルカとラルフは絶妙なタイミングで互いに腕を付き合わせ不敵に笑う。そしてジェイドとも同じように腕を合わせた。
 次に会えるのはいつになるか分からない。けれど、三人とも変わっているのだろう。

「アル君、ルカ君を頼んだわよ」

『任せておけ』

 ルカの肩から降りた彼の体を眩い光が包む。光がおさまった時には、小さな竜の姿はなく、見上げるほどに巨大な銀の竜が顕現していた。アル本来の姿である。
 ルカを背に乗せたアルはゆっくりとその大きな皮膜の翼を広げた。

『いってらっしゃい』

「いってきます!」

 ルカの返事と共に、美しい銀色の竜はエランディアの空に舞い上がる。ルカは皆の姿が遠くなるまで眺め、この街で過ごした昔を思う。
 少年は相棒の竜と共に故郷の街を旅立つ。まだ見ぬ世界に思いを馳せながら。


序奏 了



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