アルカディア
分かりきっていた事
「ありがとうございました」
成人の儀を終えた後、ルカは二人に礼を言って教会を後にした。気配を感じて後ろを振り向くと自分を追って来る人物が見える。白い神官服の少年、ジェイド。普段運動をしない彼は、息も絶え絶えといった感じで、見ているこっちが申し訳なく思ってしまう。
「ジェイド、どうかした?」
ジェイドの呼吸が落ち着くのを待って尋ねる。わざわざ追い掛けて来るとは何かあったのだろうか。それとも忘れ物でも?
だが肩に乗ったアルを見る限り、それはない。もし何かを忘れていれば彼が絶対に気付くからだ。首を傾げるルカに、ジェイドはただ一言こう言った。
「……行くんだろ?」
どこにとは言わない。幼なじみで親友の彼等に多くの言葉は必要なかった。
『世界を見てみたい』とルカは昔から言っていた。予感はしていたのだ。きっと誰にも言うことなく旅立つのだろうと。核心をついた一言にルカは観念したように肩を竦めて見せる。
「やっぱりジェイドには隠しきれなかったね。うん、もう行こうと思ってる。皆が知れば見送りに来てくれるだろうけど。そうしたらさ……別れが寂しくなるから」
別れが印象的であればあるほど辛くなる。薄情だと言われるかもしれないけどルカは決めていた。誰にも言わずにエランディアを旅立つと。
アルもルカが決めたことならと何も言わないでいてくれたのだ。
「……そっか。なら僕だけでも見送るよ」
ルカとジェイドは笑い合うと、互いに何を言う訳でもなく並んで歩き出す。行き先は時計搭。エランディアで一番高く広い場所である。
しかし普段あまり人が訪れることのない場所は、何故か多くの人で賑わっていた。
「どうして。何も言ってないのに……」
「みんな、ルカ君が来たわよ」
呆然と呟くルカに対し、アルとジェイドは笑っていた。
とその時、人込みの中にいたヘンリエッタが、二人に気付いて声を上げる。見送りに来てくれたのは、ヘンリエッタだけではない。ルカと親しい者たちや友人、世話になった人たちもいる。いつもルカに遊んでとせがんで来る子供たちもいた。
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