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ルカディア
晴れやかな笑顔
 リオンと話したことで少しだけ、落ち着くことが出来た。ささくれ立っていた心が嘘のように凪いでいる。胸を突くような焦燥も随分ましだ。アルに会いたいという気持ちは変わらない。
 いや、以前よりずっと強くなっているだろう。それでもルカの心を満たすのは焦りではなく、温かさだった。

 リオンが見せた夢はただの夢ではない。身を起こしたルカの手の中には、炎のように揺らめく菱形の石があった。まるで燃え盛る炎そのものを封じ込めたよう。光の角度によって真紅に見え、時には橙にも見える。首から下げられるように鎖が取り付けられたそれは、石に似てはいるが手触りが違う。

 リオンが言っていた竜笛とはこの石のことなのだろう。竜笛と言っても、笛の形を取らない竜笛もある。

 この石は確かに別れ際、彼から貰った物だったが、エランディアに置いて来たはずだった。何故、ルカの手の中にあるのか。もしやそれも始竜の力なのかもしれない。
 何にせよ、ルーアとイクセを見つけて夢の話をしなければ始まらない。

 ルカは竜笛を首から下げ、部屋を出る。ドアノブに手を掛けるルカは、今まで二人に見せていた痛々しい表情ではない。アルがもっとも好きな、彼らしい晴れやかな笑顔だった。



 話はルカが目覚める少し前に遡る。暫くルカの寝顔を見ていたルーアだったが、イクセを迎えにいくために宿を出た。紫の冒険者である彼のことだ。心配するだけ無駄だろうし、わざわざルーアが行く必要もないのだろう。

 けれど、ルカについて話したかったし、イクセもイクセで疲れていないはずがないのだ。彼はよくやっている。疲れたとは一言も言わないし、ルカを案じながら情報収集を続けていた。

 彼がどこに行ったのか、ルーアは知らない。聞かなくても、イクセの魔力を辿れば簡単に分かった。魔力というものは差こそあるものの、アルカディアの民ならば皆が持っているもので、その魔力の波長は人によって違いがある。

 よって波長さえ分かれば、その人物を見つけることが出来るのだ。それは竜でも同じだが、強い力で隠されている場合、ルーアの力を持ってしても探しだすことは出来ない。

 ルーアは迷うこと無く大通りから裏通りに足を踏み入れた。外見こそ少年である彼だが、本来は長い時を生きる竜。
 大の大人でさえ入るのを躊躇う場所にも平気で入っていく。人々は物珍しげにルーアを見つめているが、声を掛けてくる者は一人もいなかった。

 怪しげな露店を通り過ぎ、石作りの階段を降りた先、一段低い場所にある扉を開ける。からんからん、と扉に取り付けられた鐘が鳴り、店の主人に客の来訪を告げた。



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