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ルカディア
海神の抱擁
 ゲイルはルカにロケットを渡すと休む暇もなくさっさと旅立った。何でも重要な依頼があるらしい。
 
 本人は認めないだろうが、どうやら本当にルカの誕生日だから戻って来たようである。時計搭まで見送りに来たルカに、ゼフィロス――父の相棒の竜がこっそり教えてくれた。

 その足でエランディア唯一の教会に向かう。成人の儀はそこで行われるからだ。
 アルカディアに特定の宗教は存在しない。自然に宿るとされる神々を信仰するのが一般的で、エランディアは海の神、ネレウスを奉っている。

 時計搭近くにある教会は海の神を奉るだけあり、白く塗られた壁と装飾に使われた青が印象的だ。白亜の教会は陽光を弾いて白く輝いている。
 今日成人の儀を行うのはルカだけ。ルカが教会に足を踏み入れた時、既に神官二人が彼を待っていた。

「ルカ、よく来ましたね。お待ちしていましたよ」

 柔和な笑みを浮かべるのは三十代半ばの男。純白の聖服を纏い、長い白髪を後ろで結んでいる。真っ直ぐに見据えられたエメラルド色の瞳は、まるで全てを見通すように澄み切っていた。彼――テイアは代々ネレウスに仕える神官の家系で、後ろに控える少年は彼の弟である。

「こんにちは。テイアさん、ジェイド」

 ジェイドとルカは同い年で彼は既に成人の儀を終え、神官の道を歩んでいる。
そっと目配せをすればジェイドは小さく笑う。親友と言っても過言ではない彼は、ルカともう一人の親友とは性格が全く違うとは言え、大事な友人だった。

「こんにちは。早速ですが初めましょうか」

「はい」

 成人の儀と言っても複雑なことは一切ない。ただ祝福を受けるだけ。ルカはテイアの前まで歩み出ると絨毯の上に跪いた。
 アルは儀式の邪魔をしないように椅子の上で行儀良く座っている。本来なら一時間ほど掛かる儀式だが、今回はルカ一人であるため、略式である。

「……汝に海神(わだつみ)の祝福を与えん」

 ルカに授けられた言葉は魔歌に近いものなのかもしれない。祈りを捧げるルカを包んだのはマナ。それも海の神ネレウスが司る水に属するものだ。ふわり、と薄い水色の光の抱擁にアルは僅かに目を細めた。
 そしてその光は静かにルカの中に吸い込まれるようにして消える。



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あきゅろす。
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