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ルカディア
夢の中の訪問者
 ルカは、真っ白な世界にいた。自分以外、誰もいない、何もない空間。呆然と立ち尽くす彼の耳に、無邪気な笑い声が聞こえてくる。

 子供の、恐らくは少年の声だ。驚き、声がする方を見れば、そこには五歳ほどの少年と小さな竜がいた。
 空の色でも海の色でもない不思議な青い髪に、きらきらと輝く茜色の瞳。中性的な顔立ちとあいまって、少女と見間違えられそうな少年である。

 そんな少年を眩しげに見つめる銀色の竜。嗚呼、あれは自分とアルだ。
 だがその二人はまるで陽炎のように消えてしまう。

 次にルカの前に浮かび上がったのはまだ十歳に届かない自分と、特等席であるルカの肩に乗ったアル。
 二人はいつものように他愛もない話をしていた。それでも彼等は嬉しそうで、弾けるような笑い声を上げている。

 次々と浮かんでは消えるかつての自分達。父やイクセ、ルーアの姿もあった。
 なくしてから初めて気付いたもの。アルはこんなにも自分の心の中にいた。友人であり、時には父親であった彼。
 彼がいたからルカは寂しさに押しつぶされることはなかった。

「アル、会いたいよ……」

 口に出してしまえばもう、抑えられなかった。会いたくて会いたくて堪らない。今すぐアルに会いたい。
 挫けそうになる自分に腹が立って、泣きたくなる。けれど、泣かない。絶対に泣くもんかと歯を食いしばったルカの耳に若い男の声が届いた。

『会いたいか?』

「会いたい、会いたいよ……」

『ならオレが会わせてやろうか?』

 その声が誰かなんて考えもしなかった。会いたいかと問う声にルカは強く頷く。
 予想もしない至近距離で聞こえた声に驚いて顔を上げると、目の前に二十歳前後の見知らぬ青年が佇んでいる。

 目の覚めるような美貌の持ち主。腰まで届く長い髪は揺らめく炎のように鮮やかで、下に行くにつれて橙に近い色をしている。思わず見入ってしまいそうなほど美しい瞳は宝石よりも艶やかなバーガンディ。

 すっと伸びた鼻筋に、陶磁器のように滑らかな肌。引き締まった肢体には余計な筋肉は一切ついていない。

 綺麗なアルとはまた違う種類の、だが比べることの出来ない華やかな美貌である。気だるげな雰囲気に加え、何とも言えない色香を含んでおり、同性であろうとも目を向けずにはいられないだろう。




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