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ルカディア
悲しみを紛らわせるように
「ねえ、ルカ兄、少し休んだ方がいいんじゃない?」

 アルが居なくなってもう一週間。ルカは寝る時間も惜しんであらゆる手段を使い、アルを探していた。どんな些細な情報だって構わない。

 だがそんな彼の思いとは裏腹に、全くと言っていいほど手掛かりはなかった。
 日に日に増していく不安。本当にアルを探し出すことが出来るのか。気がつけば眠ることさえ怖くなっていた。
 今もギルドに戻ってきたばかりだというのに、また街に出ようとしている。

「大丈夫、まだいけるよ」

 力なく笑うルカはどう考えても大丈夫なようには見えない。イクセとルーアがいくら言っても無駄だった。休んでいるからと、疲れた体に鞭打って、一心不乱に動き続けた。まるでそうすることで悲しみを紛らわせるように。
 食事すら満足に取ってはいないだろう。

 もうルカの体は限界だった。顔色は悪く、いつ倒れてもおかしくない。
 見かねたルーアは静かに喪歌を紡いだ。

「ルーア、何を……」

『優しき腕(かいな)に抱かれて眠れ愛し子よ。目覚めにはまだ遠く、現実(まこと)を知るにはまだ早い。今はただ、母なる旋律(しらべ)に身を委ね、深き眠りに沈む時。遙かな咆哮(こえ)は世界に響き、世界は声に満たされる。妙なる響きを知るならば今、我が導きに応えよ――揺籃歌』

 瞬間、支えを失ったルカが崩れ落ちる。意識を失った彼の体を、一回り小さなルーアが抱き留めた。こうでもしなければ、ルカは本当に倒れるまで休もうとしなかっただろう。

 揺籃歌はいつかルカが歌った潮騒よりも強力なもので、最低三時間は何があっても目を覚ますことはない。

 ルーアはルカを抱え、ギルドの二階に上がって彼をベッドに横たえた。
 昏々と眠るルカの体にルーアはそっとブランケットを掛ける。イクセがルカに代わり、駆けずり回っているが、期待は出来ない。

 アルが本当にルカの傍を離れたのなら、自分に繋がるような手掛かりは一切残さないだろう。

 彼は中途半端なことはしない。それが余計にルカを傷つけることが分かっていたから。
 ではどうやってそんな彼を見つけるのか。

 分からなかった。どうにも出来ない現実。ルカがそれに気付いていないはずがない。それなのにルカは寝る間も惜しんでアルの行方を探していた。

 痛々しくて見ていられない。ルーアに出来ることがあるのなら、何だってしてあげたかった。
 せめて夢の中ではアルと再会出来ればいいのに、とルーアはベッドに腰掛け、眠るルカの髪を優しくすいた。




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