アルカディア
彼が与えた変化
頭の中に響いた声は僅かに震えていた。付き合いの浅いウィスタリアでさえ分かる少年の変化。
ウィスタリアと繋がっているイシュリアも気付いているようだ。
不安そうに細められた青紫の瞳をこちらに向けている。イシュリアも自分もルカに救われた。自分達に出来ることがあるのなら、喜んで彼の力になろう。
ウィスタリアが恐れていたことが現実になってしまった。滅竜歌の歌い手である青年を目にした時、アルの様子はおかしかった。
あの時から既に決意していたのかもしれない。分かっていながら何も出来なかった自分に腹が立ち、ウィスタリアは唸り声を上げた。最悪の事態を想定していなかった訳ではない。
だが考えられる最悪の事態は起こってしまった。
『ウィスタリアの力でアルを探せない?』
『本当にすまない。同じ始竜であっても、我には無理だ。竜族の力の源である魔力は血に宿る。生まれて数百年の我ではあの方を追うことは出来ない』
縋るようなルカの声に、ウィスタリアは口を開くことを躊躇った。しかしルカに嘘はつけない、つきたくない。
喪歌を操るための力。魔力とは竜の血に宿るものだ。長く生きれば生きるほど、竜の魔力は増す。始まりの時より生きるアルと、生まれて数百年のウィスタリアではその身に秘める力が違い過ぎる。
何か手がかりがあれば別だが、彼は何一つ残していかなかった。
『……そっか、ごめんね。無理いっちゃって。俺なら大丈夫だよ。だから心配しないで』
その声からして、明らかに無理をしている。無理をしなくていい。そう言いたかったが、今のルカには何を言っても無駄だろう。
それでもウィスタリアにはアルを責めることも出来なかった。悩み、苦しんだ末に出した結果であることを理解していたから。
失伝したはずの滅竜歌に、それを操る人間。闇に連なる者。やはり『そう』なのか。
彼は、白銀の君はウィスタリアよりずっと、核心に近いものを掴んでいるのかもしれない。
だからこそ彼は何より大切なルカの前から姿を消したのではないだろうか。全てウィスタリアの推測でしかないが、それしか考えられない。
『……我の方も何とか探ってみよう。何か分かったらまた連絡する。ルカ、あの方を連れ戻したいと願うのなら、お前の強い思いが必要になる。かつての我がそうであったように。あの方を探し出して欲しい。あの方自身のためにも』
『主様……』
始竜、白銀の君として、何よりも使命に忠実であった彼。
ルカにアルが必要なように、アルにもルカが必要だとウィスタリアは思うのだ。ルカこそ、あの『アルトゥール』を変えてくれた存在だから。
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