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ルカディア
父と息子、微妙な距離
「あのなぁ、俺だって好きで寄り付かない訳じゃねえよ。じゃなきゃわざわざたまにでも帰る理由なんてないだろ」

 アルが言いたいことは分かる。ゲイルが父親としてルカにしてやれたことなど数える程しかない。
 ゲイルが家を空けるようになったのは妻であるシルフィアを失ってからだ。何もかもが虚しくなった。生きる意味を見失った。
 
 しかし悲しいのはルカも同じ。
 だが一番辛い時に自分は、ルカの傍に居てやれなかった。理由を付けて全てから逃げ出した臆病者でしかない。そんな負い目もあり、ルカにどう接していいのかすら分からない。情けなくてゲイルは気付かれぬよう自嘲気味に笑う。

「それよりルカ、今日は誕生日だろ? ほら、やるよ」

 ゲイルが投げて寄越したのは、鎖の付いた銀のロケット。精緻な細工は素晴らしく、思わず見入ってしまいそうだ。中央にはルカの髪と同じ、小粒な青い石が象眼されている。
 
 おもむろにロケットを開けば、一枚の絵が飾られていた。若き日の父に幼い自分。そして柔和な笑みを浮かべた青い髪の女性――シルフィア・エアハート。ゲイルの妻であり、ルカの母に当たる人。

「かあ……さん?」

「そうだ。いつでもお前が思い出せるように」

 震える声で呟けば、ゲイルが破顔する。
 優しかった母の思い出は記憶の中に埋没して行く。ルカはいつしかシルフィアの顔さえ思い出せないようになっていた。
 
 そして今日成人の儀を終えればルカはこの街を出て、世界を回ろうと思っている。
 ずっと前から憧れた外の世界。例え新しい記憶が増えようとも母の顔を忘れぬように。ゲイルなりのプレゼントなのだろう。

「……ありがとう。嬉しい」

 ルカはロケットを閉じ、そっと両手で包むように握り締める。
 怖かった。日々思い出せなくなる母の顔。いつか何もかも忘れてしまうのではないかと。

 深い赤の瞳から涙が滲む。アルは心配そうに彼に身を寄せ、何も言わずにルカを見つめている。
 ゲイルはばつの悪そうな顔をしながらも安心させるようにぽんぽんと頭を撫でた。子供でいられる最後の時間。声を押し殺してルカは泣いた。



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