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ルカディア
何よりも願うこと
 ルーアの腕の中で暫く泣いた後、ルカは大丈夫だと笑顔で言ったのだ。
 痛々しいくらいに目を腫らし、大丈夫だと返すルカに、二人は掛けるべき言葉を見つけられずにいた。ルーアとイクセに心配を掛けないように無理をしていたのだろう。

 こんな時くらい我がままを言ったっていい。理不尽だと泣きじゃくっても仕方がない。
 なのに涙を拭いたルカは泣き言一つ言わなかった。
 アルを責めることもなく、笑っていたのだ。

 あの後、事情を簡単に話した三人はリリスとアイリーン、アーヴィンに別れを告げ、グラディウスの街を後にした。三人は最後までルカを案じてくれ、自分たちに出来ることなら何でも言って欲しいと言ってくれたのだ。

 ルカはそんな彼らにも心配を掛けたくないと笑い、申し訳なさそうな顔をした。
 本当ならまだグラディウスに留まっていたかったし、リリスとアーヴィンの事情も聞きたかったが、今は正直、頭の中はアルで一杯だった。

『……アルが姿を消したのはきっと、滅竜歌のことにルカ兄を巻き込まないためにだろうね。ごめん、僕が気付いてたら、こんな結果にはならなかったかもしれない』

 ぽつりと呟いたルーアは、いつもの少年の姿ではない。延々と続く砂礫の海の上を飛ぶもの、それは猛々しくもあり、優美な竜だった。

 太陽の光を弾いて輝く飴色の鱗に力強い金色の両翼は黄金その物であるかのよう。立派な角は黄金色をしており、人の姿と同じく、瑠璃色の瞳は宝石のように煌いている。

 アルが姿を消す前、ルーアは妙な胸騒ぎを感じていた。理屈ではない竜の本能。あの時、異変に気付いていればアルを説得出来たかもしれない。
 後悔しても仕方のないことだろう。けれど、悔やまれてならなかった。

 心のどこかで思っていたのだ。アルがルカを残していくはずがないと。

「謝らないで。誰も悪くないんだよ。でも俺はこのまま納得なんて出来ない。……どんな願いよりアルの傍にいたい、傍にいて欲しい。他は望まないから」

 後悔を滲ませるルーアに、ルカはゆるゆると首を振った。
 誰も悪くない。本当にそう思うのだ。ルーアもイクセもアルだって。ルカはアルに会いたい。命の危険より何より、アルがいない事の方が辛いのだ。

 きっと自分はアルに依存しているのだろう。彼がいなくても、一人で立たなければならない。そう思うのに、目の前が真っ暗になったかのよう。
 何も見えない。アルという色を失っただけで、世界はこんなにも色褪せて見えるのか。

「ルーアの力で探せないのか? 同じ竜なんだろう?」

『……正直、難しいね。アルはいわば僕より上位の個体だから、気配を隠されれば僕じゃ探せない』

 イクセの問いにルーアは目を伏せ、かぶりを振った。
 ルーアは竜を元にして作られた人造竜兵(ドラグーン)だ。竜を超えるための力を与えられ、調整された存在ではあるが、アルは始竜。ルーアには自分より上位の個体だと認識される。

 力さえ感じられれば追うことが出来るが、アルがそんなヘマをするはずがない。
 ルーアがどんなに感覚を研ぎ澄ませても、アルの力は感じられなかった。

「そうだ! ウィスタリアならもしかして……」

 ルカは弾かれたように顔を上げる。同じ始竜であるウィスタリアならあるいは、アルの力を感じることが出来るかもしれない。青い空と同じ輝きを放つ竜笛を取り出すと、ウィスタリアに呼びかけた。

「ウィスタリア、聞こえる?」

『ルカか? 何か問題でも?』

 竜笛から聞こえたウィスタリアの声。どこか自分を気遣うような響きがアルと重なって、ルカは思わず泣きそうになった。
 溢れそうな感情を押し込め、我慢するように唇を噛む。震える声を何とか抑えながらルカは切り出した。

「……アルがいなくなったんだ」



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