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ルカディア
ラストは望まない
『囀る声は空への憧れ。見渡す瞳は未知への期待。遥か地平の先へ夢馳せる。募る想いはやがて翼となり、穢れなき翼は空に羽撃く。遥かな詩は世界に響き、世界は歌に満たされる。無垢なる願いを知るならば、今導きの声に応えよ――翔翼』

 紡ぎかけた詩は少年の、ルカの口内に消えた。
 もし彼の居場所が分かるのなら、このまま飛んで行きたかった。どこだろうと関係ない。この背に翼がなくとも、竜が操る奇跡(うた)はそれを可能にする。

 知らなかった。隣に誰かがいないだけで、世界がこんなにも寂しいなんて。
 自分を導いてくれた一つの光。いつか空を見上げて歌う自分に彼は言った。

『例え遠く離れた何処かにいても、私にはお前の歌が聞こえる』

「ずっと探してた。帰るべき場所は君の元。それでも君はもう居ない。会いたくて。でも会えなくて。ずっと君の名を呼び続けていた。それが例え君に届かないとしても。何度だってこの詩を歌おう。君に届くまで――」

 気が付けばルカの口は、歌い慣れたメロディを紡ぎ出していた。夕暮れに染まる時計塔、まだ自分が故郷にいた時、彼のためによく歌っていた歌だ。
 だがもう、この歌を聞いてくれる存在は自分の傍にはいない。

 君はもう居ない。会いたくて。でも会えなくて。詩はまるで自分と彼のようだった。
 苦しくて悲しくて、心が引き裂かれたよう。

「永久に続くはずの約束をした。君のコト、思い続けるから。だけどこの思いは幾年起とうとも、変わることはないのでしょうか。恐くて辛くて震えてしまいそう。君は今、どこにいますか。私と同じ空を見上げていますか? 約束の場所で君のために歌ったアリア。君と繋いだ物語」

(ねえ、アル。アルは今、どこにいるの? 俺と同じ空を見上げてる? 俺は嫌だよ。これでお別れなんて。アルと紡いだ物語は終わらせない。俺はまだラストなんて望まない。必ず探しだしてみせる)

 まだ繋がっていると信じたい。大丈夫、落ち着いて。全てアルが教えてくれたこと。
 ルカはアルと一緒にいたい。例え命の危険に晒されようとも。傍にいたい、いて欲しい。
 だからきっと、アルを見つけよう。だって約束したから。




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あきゅろす。
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