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ルカディア
ゲイル・エアハート
 話に花を咲かせていたルカ達の耳に、何かが潰れたような嫌な音が届いた。かなり大きな音であったため、ヘンリエッタも驚いたように目を瞬かせている。
 かなり近い。考えなくても分かる。音がしたのは自分の家の方で、音の原因は勿論、あの父親だろう。

『……ゲイルが帰って来たようだな』

 アルは非常に嫌そうな顔をして、尻尾をテーブルに叩きつける。決定的な親友の一言に、ルカは小さく溜息を付き、静かにティーカップを置いた。 
 まさか息子の誕生日に帰ってくるとも思っていなかったが、一体どんな風の吹きまわしか。

「ヘンリエッタさん、父が帰って来たみたいなので失礼します。ごちそうさまでした。美味しかったです」

「あら、そうなの? いいのよ、気にしないでいつでも来てね」

 はい、と頷くとアルを肩に乗せヘンリエッタの家を出る。
 次にルカの目に入ったのは見るも無残に屋根が潰れた我が家。隕石でも落ちてきたのか、大きな穴を見るだけで悲しくなって来た。我が父のことながら思わず頭を抱えたくなる。

 居間に続く扉を蹴破る勢いで開ける。すると、穴の空いた天井を気にする風もなく、椅子にもたれ掛かるように座る一人の男があった。
 
 年の頃は三十代をいくら過ぎたところ。みずみずしい若葉を思わせる緑の髪と同色の切れ長の双眸が印象的な美丈夫。
 今正に旅から帰って来たような服装で、唯一の武器らしき物は腰に下げた長剣だけ。

「……父さん、帰ってくる時は普通に来てくれない? いつも屋根修理するの俺なんだから」

 男――ゲイル・エアハート、正真正銘ルカの父親は、ルカが帰って来たことに気付き、笑みを浮かべた。ひらひらと手を振り、ルカと彼の肩に乗った存在に声を掛ける。

「エランディアは竜が降りる所が少ないから仕方ないだろ。それより元気にしてたか?」

 ゲイルは立ち上がるとわしゃわしゃとルカの頭を撫でる。
 彼は相棒の竜――ゼフィロスと運び屋の仕事をしているため殆ど家に寄り付かない。ルカの記憶によると最後に帰って来たのはもう一年近く前か。
 
 家々が密集しているエランディアは確かに竜が降りられる場所は少ない。
 だが無いわけではないのだ。流石に屋根を破っての登場はないだろう。

「一応は元気だけど……」

『ゲイルよ、こうも家に寄り付かないのでは息子に嫌われても文句は言えんぞ』

 ルカの肩に乗るアルもやや呆れたような口調で嗜める。家に居ないゲイルを遠回しに責めているのだが、果たしてそれに気付くかどうか。
 
 今日だってルカの一五歳の誕生日を分かって帰ってきたのか、それとも偶然なのか分かったものではない。
 だがそんな父親でも、息子を思う気持ちは本物だ。ただ、愛情表現が分かりにくいというか、不器用というかよくも悪くもそんな人間なのである。



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あきゅろす。
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