アルカディア ただそれだけの事 「そっか……ありがと、ルーア」 自分が礼を言うのもおかしい気もするが、ルカは嬉しかったのだ。てっきりルーアは人間が嫌いだと思っていたから。 だがルーアはルカが思ったよりも大人だった。千年を生きた竜なのだから当たり前かもしれないが。 笑って礼を言えば、ルーアは不思議そうな顔をして自分を見ている。そんなに変なことだっただろうか。 「ルカ兄がお礼を言うことじゃないよ。だって僕のこと心配してくれたんでしょ?」 「って言うより俺の我がままだけどね」 世界が美しいだけではないように、人もまた良い人間ばかりではない。良い人間もいれば悪い人間もいる。 良い悪い、など簡単に言える訳ではないが、人は誰しも心に暗い部分を持っている。それは人が人である限り、どうしようもないこと。竜には醜いばかりの生き物かもしれない。 それでもルカは人間が好きなのだ。だからこれは自分の我がままなのだろう。 苦笑するルカにルーアは言う。 「ううん、そんな事ない。ルカ兄が助けてくれたから、僕は今、ここに居る。それで十分だよ」 「……凄いなぁ、ルーアは。これじゃあ、どっちが励ましてるのか分からないよ。って呼び方、ルカ兄に戻ってるし」 いつもは外見相応の少年なのに、こんな時だけルーアはずっと大人びて見える。ある意味では仕方ないのだろう。ルカは生まれてまだ十五年ちょいで、ルーアは眠っていたとしても千歳なのだ。加えて人と竜では器も違う。 それが少しだけ悔しくて、ルカは思わず話題を逸らした。 「あ、わわわわ。ゴメン、ルカ兄!!」 「だから戻ってるってば!!」 慌てふためくルーアが面白くて、つい意地悪をしたくなる。 だってこれくらいしないと悔しいではないか。 ルカはルーアにばれないよう小さく笑う。と突然、背後から肩を掴まれた。 「こ〜ら! 勝手に走って行くなよ。少しは探す方の身になれって」 「イクセ! それにアルも!」 振り返った先にいたのはイクセとアルだった。 二人には申し訳ないが、ルカもルーアもすっかり忘れていた。話に夢中になっていたからだろう。この人混みの中ではぐれでもしたら大変だ。 ルカとルーアの頭に手を乗せ、さも苦労したと言んばかりのイクセに、背後のアルが呆れたように腕を組む。 「お前は私の後について来ただけだろう」 「うぐっ……」 それを言われると辛いところがある。イクセは思わず言葉に詰まって押し黙った。二人を探し出したのはアルであってイクセではない。 竜の力を持ってすれば、ルカたちを探すことなど造作もないのである。 ただ、位置が分かっても人混みをかき分けるのは一苦労だ。現にアルとイクセも二人の元にたどり着くまで時間が掛かった。 「それより、二人とも、どうかしたか?」 「何でもない。ねっ、ルーア」 「うん。ちょっと話をしただけだよ」 不思議そうに首を傾げるアルを見たルカとルーアは、顔を見合わせて微笑む。 いくらアルでもこればかりは教えられない。今の話は二人だけの秘密なのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |