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ルカディア
表裏一体
「……良かった。俺もね、少し迷ってたんだ。ルーアを本当に外の世界に連れ出して良かったのかって」

 ルーアの告白を聞いたルカは息を吐き出した後、ぽつりと呟く。
 初めてあの声を聞いた時、どうにかしなければならない。そんな気持ちが芽生えたのだ。自分以外誰にも聞こえない声。助けを求める悲痛な声を聞いた時、そう、反射的に助けなければと決意した。

 ルーアは人の手により作られた竜、ドラグーン。望まぬまま命を奪い続け、命を絶って欲しいと言っていた。
 だけど、もし本当にそうならばルカを呼ばずとも、彼は遠からず消滅するはずだった。それを自身が知らぬはずはないだろう。

「え?」

「ルーアに取って何が最善なのか、だったのか俺には分からない。もしかしたらあのまま、揺り篭で眠っていた方が幸せだったのかもしれない。……違うな。俺は結局、ルーアに人間を嫌いにならないでほしかったんだ」

 言いたいことが上手く言えなくて、ルカはもどかしげに己の髪に触れる。
 世界は綺麗なものばかりではない。汚いものも、醜いものも存在する。理想郷の名で呼ばれるこの世界、アルカディアには。

 正論全てが通る世の中でもなければ、最低な人間だっている。目覚め、自分たちと旅を共にするようになれば、望まずともそんな世界の一面を目にする事になるだろう。
 ただでさえ、人竜大戦時に人間に良い印象は抱いていない彼の瞳に、世界はどう映るのか。

 夢見た世界とは違う現実に人造竜兵の少年は何を思うだろう。
 ルカはただ、ルーアに人を嫌いにならないで欲しかったのだ。綺麗な部分だけを見て欲しいなんて都合がよすぎるのかもしれない。それでもルカは美しい世界を見せたかった。

 彼を造った人が愛した世界。それは決して醜いだけではないと言いたかったのだ。

「確かに僕は人間は好きじゃないよ。酷い事をするような人はね。僕にだって分かってる。世界は美しいだけじゃない。光があれば影が出来るように、世界もまた綺麗なものがあれば醜いものもある。表裏一体。それは何にでも存在することだよ」

 表裏一体だと言ったルーアは、いつもの無邪気な少年でも、ウィスタリアに名乗った時の威風堂々とした竜でもない。
 どこか大人びた、それでいて静かさを宿す瞳は、行き交う人々を見つめている。

 ただ、その瞳はここではない、遠くを映しているようだった。今ではない遥か昔、人竜大戦時代だろうか。

「ルーア……」

「だから貴方が気に病むことなんてない。僕は感謝してるって言ったでしょ。勿論貴方だけじゃなく、アルやイク兄にも」

 視線をルカに向けたルーアは、晴れやかに笑った。
 生きたいと願ったのも、ルカたちと共に行きたいと思ったのも自分だ。誰かに言われたからではない。
 だからルカにはそんな顔をして欲しくなかった。あの時、アルに言われたように、ルーア自身が望んだことなのだから。

 あの人が愛した世界をこの目で見ることが出来て本当に良かった。それに加え、ルカはルーアに真名を与えてくれた。



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