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ルカディア
飴色の少女
 そして、神祈祭当日。
グラディウスの街は今までにないくらいに賑わっている。街行く人々は興奮を隠しきれず、地元の者たちでさえ、どこかそわそわしていた。
 歌姫を見るためか、大通りは人でごった返しており、慣れていない者なら体調不良を訴えてもおかしくない。

 そんな中、アルたちは皆で『歌姫』を待っていた。何でもリリスとアイリーンが、直々に衣装を選んでくれているらしい。ただ、アルとイクセは若干辟易している。

「あれから何分だ?」

 呆れたように尋ねるアルは、竜ではなく人の姿である。人の姿の方が目立たないからとの理由ではあるが、整い過ぎた容貌は逆に人目を引く。雪のように白い肌に銀の髪、金の瞳と色素の薄い彼は余計に目立つのだ。

 しかし人々がアルに注意を向けることはない。何か特殊な法を使っているのだろう。

「丁度二十分だね。リリスさんたち張り切ってたから、きっとまだ出てこないよ」

 答えたのは少女にも見える飴色の髪を持った少年――ルーアである。隣には、待ちくたびれたらしいイクセの姿があった。
 今日はルーアに結って貰ったのか、髪は頭の上で纏められている。それでもこの暑さでいつもと変わらぬ黒の上下とは、見ている方が暑くなる装いだ。

「ルカの奴、かわいそうに。今頃、リリスの玩具になってるな。張り切り過ぎてルーアちゃんもどう? って言われてただろ」

「僕の場合は自分で姿変えられるしねー」

 ふふん、と笑ったルーアは凄いでしょ、と胸を張った。
 人造竜兵(ドラグーン)である彼は、自分の姿を自由に変えられる。
 人造竜兵は魔水晶を核として作られているが、肉体は竜と同じマナだ。アルが人の姿を取るのと同じように男にも女にもなれる。

 ルーアが少年の姿を取っているのは、彼を作ってくれた人間の息子を元に作られているから。

「こんな感じね」

 ルーアは周囲を見回してくるり、と一回転をする。すると、どうだろう。ルーアはもう少年ではなかった。
 年の頃は十代前半ではなく、ルカと同じ十代半ばほど。髪と瞳は飴色と瑠璃で同じだが、肩より少し長い髪を左右で縛っている。

 服装も変わらずストライプのリボンタイに白いシャツ、黒のハーフパンツにブーツだ。ただ、どこから見ても『ルーア』は少女だった。

「ほー、成る程な。って誰か見てたらどうすんだよ」

「酷いなー、イク兄、そんなヘマしないよ」

 感心していたイクセだが、慌てて辺りを見回した。幸い気付いた人間はいないらしい。
 ルーアが心外だなー、と唇を尖らせる。その仕種は非常に可憐なのだが、それだけだ。

 彼女であれ彼であれ、ルーアであることに変わりない。可愛らしいと思わないでもないが、イクセの中で『ルーア』はやはり少年だった。
 アルはじゃれ合う二人をよそにグラディウスの街並みに視線を向けている。彼らのやり取りなど耳に入っていないようだが、アルの耳が僅かに動く。




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