アルカディア
歌に隠された秘密
「あ、ルカ兄も気付いた? 流石だね」
驚きで何も言えないイクセを尻目に、ルーアは瞳を輝かせ、アルは満足気に頷いている。
イクセの記憶が正しければ、アルは殆ど人に分からない音だと言っていなかったか。
どうやら常人は色んな意味でイクセ一人のようである。イクセはルカの両肩に手を乗せ、にっこり微笑んだ。
「ルカ。お前、ホントに人間か? 俺にはさっぱりだ」
「イクセってば酷いな。俺はれっきとした人間だよ」
ルカは唇を尖らせて、四歳上の青年を見上げる。人間以外の何に見えるのだろうか。
するとルーアの肩に乗っていたアルが飛び上がり、イクセの頭を蹴った。
あだ、っと悲鳴が上がるがアルは気にしない。そのままちゃっかりと彼の頭に腰をおろす。
『ほぼだと言っただろう、イクセル。人には聞こえない等と私は一言も言っていない』
「まあ、アル、その辺にしてあげて。話を戻すけど、あの歌ってもしかして魔歌として組み立てられるかなって思ったんだ」
リリスが言っていたが、神祈祭は元々、神に雨を降らせてもらうためのもの。
つまり、あの歌こそ雨乞いの歌であり、歌っていた歌姫は元は魔奏士だったのかもしれない。
そしてこれはルカがアルから学んだことだが、高位の魔歌はただ歌うだけでは発動しない。
雨を降らせるための魔歌は、時を経るごとにいつしか、普通の歌になってしまったのではないのだろうか。
『恐らく可能だろう。だがあの歌を魔歌として組み立てるのは骨が折れるぞ。もとある魔歌をアレンジするのなら兎も角、あの歌は殆ど魔歌の原形を留めていない』
唸るようにいうアルが言うように、歌となってしまったものを、魔歌として組み立てるのは容易ではない。
一から魔歌を作り出すことと同意義だ。魔歌の詩はただの詩ではない。詩の中には効果範囲から制御方まで魔歌を操るために必要な全てが含まれている。
「そっか……それじゃあ、無理かなぁ」
『そう急くな。骨が折れるとは言ったが不可能ではない。私やルーアハがいるのだからな』
残念そうな顔をするルカを見て、アルが得意げに笑う。そもそもアルは始竜。
魔歌の元となった喪歌は初めにアル達、始竜に与えられたものだ。アルが言ったのは、普通の竜や人間であれば、ということである。
「手伝ってくれるの?」
『手伝わぬ訳がないだろう?』
不思議そうに尋ねるルカに、アルは不敵に微笑んだ。
ただ雨を降らせたとしても、グラディウスの乾いた大地には一時の潤いにしかならないだろう。
それでも人々に希望を与えられるなら、ルカはやってみたいと思うのだ。何事にも全力で、それが自分、ルカ・エアハートだから。
「もちろん、僕も手伝うからね」
「まあ、俺は大したこと出来ないと思うが一応な」
「ありがとう、みんな」
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