アルカディア
せめて肩にして下さい
結局、リリスの元に戻ったルカたちは、言うまでもなくこってり絞られた。しかも抜け出した本当の理由も言えないため、怒られ損ではないだろうか。
神祈祭まで日がないことから、ルカは毎日練習に明け暮れていた。朝も昼も関係なく、だ。
依頼を受けた以上、中途半端には出来ないという矜持もある。ルカは文句も言わずに練習していた。
「ルカの奴、張り切ってるな」
練習風景を目にしたイクセは、感心したように呟いた。
隣には同じく感嘆の声を上げるルーアに、彼の肩に乗ったアル。今日は人の姿ではなく、見慣れた竜の姿だ。
『しかしこの歌、魔歌に似ている……』
「あ、アルも思った? 何だか魔歌特有の『音』が混ざっているのかな?」
魔歌が魔歌足たりえる結びの詩は入っていないものの、この旋律は魔歌に通じるところがある。 人の耳ではほぼ気付かない。竜である彼だからこそ気付いたのだ。
勝手に二人で納得している竜たちの会話は、イクセにはさっぱりである。魔歌についてそう知識がある訳でもないし、アルとルーアにはついていけない。
「はあ、人間には分からない音ってか?」
『そういうことだ。まあ、殆どの、だがな』
「分かったから頭に乗るなって」
眉をハの字に曲げるイクセに、アルは素っ気ない返事をする。つまりは会話に入ってくるなということか。
ルーアの肩に乗っていたアルが、イクセの頭の上に乗った。アルは見た目は小さいが、結構な重さである。しかもアルが乗るのは決まって頭だ。
せめて肩にして欲しい。何だってイクセだけ頭なのだろう。はげたら〜は冗談だが、少しだけ将来が不安になったイクセである。
『仕方ないな』
ふー、と深いため息をついたアルは、イクセから(正確には彼の頭から)離れた。
仕方ないって言うより当たり前だ、とつっこみたい衝動に駆られたが、ここは我慢。余計なことを言って馬鹿にされるのは目にみえている。
「あ、ルカ兄、来たよ!」
ルーアの声につられるように前を見れば、ルカがこちらに歩いてくる。
今日の練習は終わったらしい。祭りまで一週間を切っていることもあり、ルカは少しだけ疲れているように見えた。
「練習終わったの?」
「うん、今日のはね」
『練習もいいが、あまり根を詰めるな。倒れては元も子もないぞ』
心配そうな顔をするアルは、既にルーアの肩に戻っている。ルカは例え疲れていても、自分からは何も言わない。
今だって連日の練習で疲れているだろうに。この勢いだと倒れるまで弱音は吐かないだろう。
十年以上も共に過ごして来たアルには分かる。
「うん、ごめん、ちゃんと休むよ。あのさ、アル、今俺が歌ってた歌って、魔歌に似てないかな?」
ごめん、と謝ったルカはルーアの肩に乗ったアルに尋ねる。ここ最近、練習でずっと歌っていて気付いたことだ。
具体的に何が、とは言えないが、そんな気がした。博識なアルならもしや、と思って聞いたのだが。
すると何故かイクセが驚いた顔をする。
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