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ルカディア
始竜という名の鎖
 自分はあの子のために何が出来るのだろう。ありとあらゆるものからルカを守りたかった。彼を害するもの全てから。それは竜がただ一人の人間に向けるにはあまりに大きな感情。

 本来なら始まりの竜であるアルは世界に、ただ一人のヒトや竜に干渉してはならない。監視者とも言える存在だ。
 もし二つの種族が滅びを選択するのなら、それはそれで仕方のないことなのだろう。
 しかし千年も昔に失伝したはずの滅竜歌を操る人間が残した“闇に連なりし者”との言葉。

 もし、その言葉に偽りがないのなら、アルたち始竜に責任がある。彼には真相を確かめる義務があるのだ。ルカのために出来ること、それは『アルカディア』を守ることでもある。

 ルカの屈託のない笑顔を見て、アルの心は揺らぎそうになった。自分の行動がどれほどルカを傷付けるのか痛いほどにアルは理解している。
 それでもやらなければならない事が『アルトゥール』にはある。

『すまない……こんな選択しか出来ない私を許してくれ。いや、許せとは言わない。私はアルトゥールという存在の前に“始竜”なのだ。これ以上、私達の事情にルカを巻き込むわけにはいかない』

 その時までは、ルカにもイクセにも、勿論ルーアにも気付かれる訳にはいかない。具体的な言葉こそ交わさなかったが、ウィスタリアも自分と同じ考えではないのだろうか。

 この決断はまるで半身を引き裂かれるくらい辛かった。叶うことなら始竜としての役割など捨ててしまいたかった。

 分かっている。一時の感情に任せて全てを投げ出すことなど出来るはずがない。これほどまでに自分が始竜であることを呪ったことなどなかった。
 始竜ではなく、ただの竜であったなら、ずっと彼の傍にいられただろうに。

 それが叶わぬ願い、絵空事だと知りながらアルはウィスタリアとイシュリアを見送るルカを見て微笑んだ。せめて優しいルカに悟られぬように。



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