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ルカディア
ドラグナー
 街中を行くルカに露店の主人や子供たちから声が掛けられる。
 まだ成人を迎えてはいないものの、所謂何でも屋のような事をしているためだ。ルカにとって趣味の一環のようなもので、滅多に家にいない父親に叩き込まれて育ったからと言うのもある。

 エランディア独特の石造りの街並は訪れる者に堅さよりも人の温もりを伝えてくれる。それはここに住む人々の明るさに寄るものだが、辺境とも言える都市では珍しい。

「ルカ兄ちゃん、僕も今度アルに乗せてね!」

「アルが良いなら俺は大歓迎だよ」

 一人の少年がお願いすると一緒に遊んでいた子らも僕も、私もと声を上げる始末。その辺りは流石は子供である。
 自分たちの預かり知らぬ未知のものにも瞳を輝かせる彼等は正に好奇心の塊だ。

『私は子供は苦手なんだが……』

 ぽつりと呟いた一言が子供たちに聞こえる訳もなく。例えアルが大声で叫んだとしても聞こえまい。普通の人間には彼の、というか竜の言葉を理解出来ないからだ。
 
 だが稀に人の中にも竜の言葉を理解し、心通わせる者が居る。ルカもまたそんな人間の一人であり、彼のような者を声を聞く者(ドラグナー)と呼ぶ。
 しかし何故彼等が竜の言語を理解出来るのかは分かっていない。一種の精神感応では無いかと言われているが、真実に辿り着いた人間は一人としていなかった。

 狭々とした街ではあるが、ルカは生まれ育ったこの街が大好きだった。
 一度としてエランディアを出た事がない彼は、外の世界に憧れてもいた。ルカは声を掛けて来る人々に挨拶しながら、ある家の前で止まった。

「ヘンリエッタさん、居る?」

「はいはいー、少し待ってね」

 呼び掛けながらノックしてみると直ぐに応えが返って来る。開けられた扉の先、声の主はエプロンを付けた若い女性だった。
 アーモンド型をした灰色の瞳に、明るい茶の髪を緩く巻いて肩に流している。二十代半ばほどにしか見えないのだが、実年齢は三十歳を超えているらしい。

「ルカ君、いつもありがとう。お昼まだでしょう? 良かったら食べて行って。勿論アル君もね」

 ヘンリエッタの申し出は非常にありがたかった。
 ルカは滅多に家に寄り付かない父親の影響もあり、家事全般をこなすことは出来る。
 しかしヘンリエッタの料理は温かくて、好きだった。彼女が作る料理は覚えていない母の味だから。

『お言葉に甘えさせて貰ったらどうだ?』

「そうだね。それじゃあお邪魔します」

 ルカは軽くお辞儀をすると、アルを乗せたままお邪魔する。
 昼食は海老やイカがふんだんに使われたシーフードパエリアだった。ほんのりと色付いた海老やサフランの香りが何とも食欲を刺激する。ヘンリエッタが作るパエリアは絶品だ。



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