アルカディア
衝撃の事実
「ここが私の家よ」
リリスの言う家、とはルカが空から見たあの宮殿である。
遠くからでは分からなかったが、近くで見ると装飾に金や銀が使われていることが分かった。他の家と同じく材質は石だが、上から白と青の塗料が塗られているために一見した所で気づかない。
一本の柱でさえルカの倍以上の太さで、こちらも細やかな彫刻が施されており、果ては床は石畳と思いきや、何と大理石である。
こんな贅の限りを尽くした建物を見たことすらないルカは、ただ呆然と宮殿を見上げるしかなかった。
それはルーアもアルも、イクセでさえ同じなようで皆仲良くルカのように瞬きすら出来ず、彫像と化している。
「……これが、家」
「ええ、私、グラディウスの領主の娘なの」
リリスがさらりと流した中に爆弾発言があった。つまりここがリリスの家であり、グラディウス領主の宮殿ということか。
グラディウスの領主の娘。確かにこれが領主の館なら納得出来る。ただ、ルカは一言も聞いていない。驚いているイクセも知らなかったのだろう。
「俺も初耳だ」
「あら当然よ、だってアーヴィン以外知らないもの」
アーヴィンが知っていたのは、彼もまたグラディウス出身だから。
当然よ、と笑うリリスはルカ達の反応を楽しんでいるかのよう。リリスが領主の娘だということは分かった。
では何故、領主の娘がアルストロメリアのギルドの受付なんてしていたのだろうか。領主の娘だとすれば彼女の歳なら既に結婚しているはず。それに加え、普通ならグラディウスの外に出るのも稀だろうに。
「それが何でギルドの受付なんてやってたんだよ。剣だって使える。本当に領主の娘か?」
「失礼ね。見聞を広めるために決まってるじゃない。領主となる者、広い視野を持て。父の教えだわ。剣も同じよ。基礎は父から教わったわ。グラディウスの剣士は皆、舞踏剣の使い手だってイクセも聞いたことあるでしょう?」
リリスが腰に差している剣は軽めに作られた普通のロングソード。
グラディウスの剣士はシャムシールやカトラスなど刀身が反り返った片刃の剣を使う。
満足に鎧を付けられない砂漠では殆どの場合、防具は身に纏わない。彼らが湾曲した刀身を持つ剣を使うのは、生身の相手により的確に傷を負わせるためだ。
「舞踏剣か……確かに有名だな」
「舞踏剣って何?」
ルカの問いにリリスがどうぞ、とイクセに説明役を譲った。大方面倒なことを自分に押し付けようとする魂胆か。説明役など面倒ではあるが、期待の眼差しで見つめてくるルカを無下には出来ない。イクセはふう、と息を吐くと仕方なく口を開いた。
「その名の通りだ。グラディウスの剣士はまるで舞うかのようにしなやかに、そして美しく剣を振るう。だがその演舞は見る者に感激や感動を与えるものじゃない。彼らが与えるのは死だ。だからこそ、彼等の太刀筋は美しい。純粋に生きること、人を殺めることだけに特化した剣だからな」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!