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ルカディア
自然の雄大さ
 アルは街の近くでかつ、人に見付からないように隠れた砂地に着陸する。同時に今までルカたちを覆っていた風のヴェールがはらりと解けて見えなくなった。
 
 アルの体が銀色の光に包まれたかと思えば、見上げるほどに強大な竜の姿はどこにもない。いつものように小さくなったアルはぴょん、とルカの肩に飛び乗った。

「行きましょうか。まずは私の実家に行くわね。詳しいことは明日話すわ」

 リリスの後について歩き出す。初めは良かったのだが、歩く度に靴が砂に沈んで歩きづらい。その上細かい砂は服や靴の中に入ってくるから最悪だ。
 まだ服だから良かったものの、これが鎧を着た騎士であったなら、鎧の重みで身体が沈んで到底動けないだろう。

 先頭を行くリリスは流石に慣れた足取りだが、イクセもルカのように苦戦している様子はない。アルは自分の肩の上だから関係ないし、唯一ルーアだけが同じように四苦八苦していた。
 だが待ってくれと言うのもしゃくだ。ルカは文句も言わず黙々と足を動かし、リリスとイクセの後を追う。

 神祈祭が近いお陰か、グラディウスの街は多くの人々で賑わっていた。あまりの人に、慣れていない者なら酔いそうなほどだ。夕刻だというのに熱気が凄まじい。

 よくよく見てみると、大通りを歩く人々の大半が日に焼けた肌に、薄い生地の衣服を身につけている。かと思えばルカたちのように白い肌に色素の薄い髪の人間もいた。

 アルが知っていたと言うことから考えると、神祈祭は有名なのだろう。祭を目にするためにグラディウスにやって来ている観光客も結構いるのかもしれない。

 目に映るもの全てが新鮮で、ルカはゆっくりと辺りを見回した。砂であるはずの地面はきちんと石畳が敷かれ、強い日光を避けるために屋外の飲食店や露店の頭上には天幕が張ってある。

 街の外、地平線の彼方に目を向ければ既に夕暮れ時が近いことから、夕日に照らされた砂の海が美しい夕焼け色に染まっていた。
 きらきらと光る砂はまるで黄金。とても言葉では言い表せない美しさにルカは息を呑む。

「綺麗だね……ルカ兄」

 ルーアもルカの隣に並び、同じように砂漠を眺める。
 自然というものは人やそこに生きるものに厳しいだけではない。人の心を揺さぶる美しさがある。自然の雄大さを感じるとはこう言うことなのだろう。

 大通りを行く人々は誰も振り返らない。グラディウスの民からすれば見慣れた光景に違いない。

「ルカ、ルーア。はぐれるな、ちゃんとついて来いよ」

 イクセとリリスが優しい眼差しで見守っていたとは露知らず、ルカとルーアは慌てて二人の後を追った。




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