アルカディア
ゲイル・エアハート
「おい、ルカ、お前もしかしてゲイル・エアハートの血縁か?」
ゲイル・エアハート。冒険者たちの間でも有名な人物。相棒の竜と共に運び屋を営む彼は、依頼成功率はほぼ百パーセント。剣士としての腕も高いらしく、かの剣聖と並び称されるくらいである。
エアハートと言えば珍しい名なので、心当たりはそれしかないのだが、ゲイル・エアハートに息子がいたとも聞いたことはない。
しかしルカはエランディアの出身だと言っていたから、間違いではないかもしれないが。
「え? うん、そうだよ。ゲイル・エアハートは俺の父さん。でも何でイクセが父さんの名前知ってるの?」
ルカも父が運び屋をしているとは聞いたが、イクセほどの冒険者が名前を知っているくらいに有名なのだろうか。
ゲイルは自分について殆ど話さないし、そもそも家に帰ってくる事すら珍しい。
一年の殆どは相棒のゼフィロスと共に世界中を飛び回っているのだ。
「嘘。ルカ君ってあの、ゲイル・エアハートの息子なの!? 業界じゃあ有名よ? 依頼の成功率はほぼ百パーセント。物凄く強いらしいし、組合に所属してないのにその地位を確立しているの」
『ゲイルは殆ど自分について話さなかったからな。とは言っても隠していた訳でもあるまい。……全く不器用な男だ』
頭上の会話を聞いていたアルが呆れ気味に呟く。そんな男の息子が真っ直ぐに優しく育ったのは本当に不思議なものだ。
放任主義と言えば聞こえはいいが、ようはゲイルは息子に対する接し方が分からなかったのだろう。
ゲイルと比べてアルはルカと殆どの時を過ごして来た。そう思えばゲイルよりもアルトゥールが彼の父親的な役割を果たしたのかもしれない。
「父さん、自分のこと殆ど喋らなかったし、運び屋って知ったのも二年くらい前だもん」
ゲイルが家に寄り付かなくなったのは、ルカが五、六歳の時、母が帰らぬ人となった年からだ。
幸い、アルやヘンリエッタのお陰で何とか暮らしてこれたのだが、それはルカが何歳になっても変わることはなかった。たまに帰ってきても数日でエランディアを旅立つ父親。
正直に言えば寂しかった。突然、母を亡くし、父までも家に寄り付かない。一番甘えたい年頃だろうにルカはずっと我慢していた。アルがいたから耐えられた。ずっと一緒にいてくれたアルがいたから。
「……何でも屋をやってたのも父親の影響なのか?」
イクセはふと想い出す。ルカは故郷のエランディアで、アルと共に何でも屋を営んでいたと言っていた。戦い慣れしていたのもそれが理由だと。
父が運び屋だから彼もまた同じように何でも屋を営んでいたのだろうか。イクセの問いにルカは僅かばかり驚いたらしい。何とも言えない表情を浮かべている。
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