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ルカディア
一枚上手
「分かりました。でも女装なんて今回だけですよ」

 ルカは渋々と言った様子で首肯した。
 気は進まないが、他でもないリリスの頼みである。シャーレンの時、随分と心配を掛けたから申し訳ないとも思っているのだ。

「ありがとう。本当に助かるわ。神祈祭も主役がいなきゃ、話しにならないし」

「主役!?」

 リリスが発した言葉に聞き捨てならない一言があり、ルカは思わず聞き返した。
 今、確かに『主役』と言ったような……。
 リリスはと言えばその整った顔にふてぶてしい笑みを浮かべている。言うのを忘れていたというより、あえて口に出さなかったと言うところか。

 隣でイクセが盛大に噴き出して笑い転げているのには触れないでおこう。他人事だからって少々笑いすぎではないのか。ルカがイクセを睨み付ければ、彼は笑いを抑えて涙を拭いた。
 次の瞬間には、つい数秒前まで笑い転げていたとは思えないポーカーフェイスだ。

「で、リリスさん、主役ってどういうことですか?」

「姫巫女役の子が祈りの歌を歌うのは神祈祭の言わばメインイベントだから、主役って言っても過言ではないわね。それとも止めたくなった?」

 まるで試すような口調だった。ただルカがそう感じただけなのかもしれないが。
 だがそこまで言われればルカとて引き下がれない。

 何でも屋を営んでいた時と同じなのだが、何でも屋であろうと冒険者であろうと、一度引き受けた依頼は何があろうと最後までこなす。
 それを疑われるのはあまり気分のいいことではないのだ。

「いいえ。確認しただけです。プロですから、一度受けた依頼は最後までちゃんとやります!」

 言い切ったルカを見てリリスが微かに唇の端を持ち上げた。彼女が止めるかと問うたのはわざとだ。そう言えばルカが必ず受けると踏んでいたから。

 そしてリリスの読み通りになった。その辺りは流石にリリスの方が一枚上手だったのだろう。

「そうね、ごめんなさい。それじゃあ話しも纏まったことだし、アル君、起きて。悪いけどグラディウスまでひとっ飛びお願いね。徒歩だと時間掛かっちゃうから」

『……もう……食え……ないぞ、ルカ』

 どうやら食べ物の夢でも見ているらしい。ルカの肩の上で気持ちよく昼寝をしていたアルがイクセによって叩き起こされたのは、それから約二秒後のことである。




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あきゅろす。
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