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ルカディア
所詮は他人事
「絶対に嫌です!」

「お願い。こんな事、ルカ君にしか頼めないし」

 リリスが困っているのなら、ルカとて何とかして助けたかった。
 だがそれだけは嫌だ、譲れない。越えられない一線だ。

 かと言ってリリスもそう簡単に退くような相手ではない。懇願するような上目使いでルカを見上げる。
 流石に女装して、なんてそう簡単に頼めない。普通、男に頼まないと思うのはルカだけだろうか。わざわざ女装せずとも他を探した方がいいに決まっている。

「やっても良いんじゃないか?」

「他人事だと思って……」

 口を挟んだのはイクセだった。
 しかし声音は真剣とは程遠く、絶対に面白がっている。その証拠にテーブルに肘を付いて顎を乗せた彼の端整な顔には意地の悪い笑みが浮かんでいた。
 思わず声に出してしまったのも仕方ない。

「そりゃあ、他人事だからな」

 ルカが不満気に言えば、イクセは笑いを堪えるのに必死だった。ルーアもイクセの真似をしてテーブルに肘をついて遊んでいる。意外に鋭い時もあるルーアも今は外見相応の少年でしかない。

 一度でも自分をマスターと呼んでくれたのなら、切実に助けが欲しかった。どうにか女装から逃れられないかと思案していたルカは、ある考えに行き着く。

「それなら別にイクセでも良いんじゃない?」

 彼の整った顔は十分女にも見えるし、自分でも良いのなら当然イクセだって大丈夫なはず。他人事だと思って面白がっていたお返しだ。
 ちなみに先程から一言も喋らないアルは、興味のない会話になった瞬間、ルカの肩の上で昼寝を始めた。

「ばっ、背の高さ時点で駄目だろ」

 確かにイクセほど高い女性なんて殆どいないだろう。その点、ルカは年頃の少女より背は高いが、化粧を施せば絶対に男だとばれないはずだ。少なくともリリスはそう思う。
 顔立ちや年齢、歌い手としてもルカが最適なのである。

「そうなのよねー。顔だけならイクセでも全然いけるんだけど」

「……どうしても俺じゃなきゃ駄目なんですか?」

「ええ、ルカ君ほど可愛い子居ないから絶対大丈夫よ」

 満面の笑みを浮かべて言ってくれるのは良かったが、男が可愛いと言われて嬉しいはずがない。 だがこのまま断るのもリリスに申し訳なかった。元々、ルカは何でも屋をやっていただけあって困っている人を放って置けない性分なのだ。

 リリスの頼みも女装さえなければ、二つ返事で承諾していただろう。
 リリスが真剣な眼差しで自分を見ている。助けを求めている。その時点でルカの心は決まった。




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あきゅろす。
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