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ルカディア
リリスの呼び出し
 今にして思えば、何か断る方法があったのではないかと思う。
 だがもう遅い、手遅れだ。
 ルカは姿見に映る自分の姿を見てため息をついた。そこに映っているのは見慣れた自分ではない。
 しかし『彼女』には似ている。瓜二つだ。

『母さん、俺は俺じゃなくなったみたい……』

 こんな姿をアルやイクセ、ルーアに見られたら笑われるに違いない。
 服を着替えさせられた挙句、武器も取り上げられた。
 ルカの手元に残ったのは、父が誕生日にくれた宝石が嵌め込まれた銀色のロケットだけ。ルカは鎖を外し、首の後ろに回して金具を止めた。



 ルカの姿を見つけて安堵の表情を浮かべたのは、二十歳前後の青年だった。特徴のない顔立ちだが、寝癖だろうかこげ茶の髪が所々跳ねている。よくよく見れば何となく見覚えがあった。
 だが直ぐには思い出せない。エアハート、と言う名を知っていたことから、ギルド関係の人間だということは推測出来るが……。

「……あ! 受付の……」

 じっと彼の顔を見つめていると、どうにか思い出せた。ギルドの受付の男性である。
 随分と急いでいたようで息も絶え絶えだ。何かルカに言いたいことがあるらしいが、この状態では話も聞けない。取りあえず彼が落ち着くのを待って、ルカは口を開いた。

「あの、受付の人が俺に用ですか? もしかして何かやりました?」

 恐る恐る青年を見上げる。自分でも知らない内に何か不味いことでもやってしまったのだろうか。
 血の気が引き、冷や汗がだらだらと吹き出て来る気がしてならない。
 そんなルカとは裏腹に、青年は両手を振って否定した。

「あ、違うんだ。アルストロメリア支部のリリスさん、知ってるよね?」

 青年の口から出たリリスの名にルカは首を傾げるしかない。
 ルカが初めて訪れた街、アルストロメリアのギルドの受付の一人。アーヴィンとリリスの世話になったのは記憶に新しい。
 しかしそのリリスとこの青年に何の繋がりがあるのだろう。一方イクセもルカと同じなのか、口こそ挟まないが、怪訝そうな顔をしている。

「はい。お世話になりましたから。でもそのリリスさんがどうかしたんですか?」

「それが……なんでも君に頼みたいことがあるみたいでね。ギルドまで来てるんだ。もしエアハート君が受けてくれるなら、ギルドを通して正式に依頼するみたいだけど。私も詳しいことまでは……」

 青年の話を要約すると、リリスがギルドでルカを待っているという。
 ここで疑問が一つ。何故名指しなのか、だ。
 ルカはまだ駆け出しと言っても過言ではない冒険者(ハンター)だし、依頼をするならイクセが最適である。
 ルカを呼び出したということは、自分にしか出来ないことなのだろうか。

「分かりました。わざわざありがとうございます。受けるか断るかは別として、一度話だけでも聞いてみます。イクセとルーアはどうする。どこかで時間潰す? それとも一緒に行く?」

 考えたところで分かるはずがなく。話を聞いてみなければ何とも言えない。
 わざわざルカを指定した上に、アイリスまで来たのなら、それ相応の理由があると考えて間違いないだろう。話を聞くだけならアルがいれば十分だし、まだ頼みを聞くと決まった訳ではない。

「俺も一緒に行くわ。ルーアも行くだろ?」

『うん。僕も行くよ』

 意見も纏まったことで一行は、青年と共にリリスが待つギルドへと向かった。



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あきゅろす。
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