交易都市ブルガル あれから数時間後、セラとリンはサカ最大の都市――ブルガルに居た。ブルガルは交易都市としても有名で旅に必要なたいていの物は揃う。 ベルンやイリアにも近いため、様々な品物を仕入れる行商人の姿もちらほら見かけることが出来た。 「ね、セラ、どう?」 セラが返事をする前にリンは有無を言わせぬ口調で試着室のカーテンを開けた。 彼女らは一通りの買い出しを終えた後、セラの服を買うために立ち寄ったのである。リンがどうしてもと言い張ったことも理由の一つだろう。 「え、ちょっとリンさん」 「似合ってるじゃない!」 彼女が着ているのは、シンプルだが丁寧に作り込まれた白いローブで、セラの銀の髪と相俟ってとてもよく似合っていた。 「落ち着かないです」 リンがセラと出会った時、彼女は簡素なフード付きの茶のローブを着ており、ブルガルに着いてからもフードを被ったままだった。 それは一重にセラの容姿が原因であると言えよう。エレブでは銀色の髪は珍しいし、金と青のオッドアイも奇異の目で見られてしまう。 「よし、決めた。これ買いましょ」 「え、でも……」 渋るセラにリンはさっさと会計を済まし、彼女の手を引いて店を出た。 「セラでも驚くことがあるのね」 呆気に取られてぽかんとする彼女を見てリンは密かに笑う。 セラが何か言い返そうとした矢先、二人の前に一人の男が現れた。 「おお! これはなんて華やかなんだっ!」 年齢は恐らく二十代前半と言ったところだろう。明るい茶の髪に、見るからに軽そうな顔。だが体を覆う深緑の鎧と一頭の馬を連れていることから騎士であることが伺い知れた。 「待って下さい! 美しいお嬢さんたち! よろしければお名前を! そしてお茶でもいかがですか?」 騎士の言葉にセラはともかく、リンに冷ややかな視線を向けられたのは言うまでもない。 [*前へ][次へ#] |