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誓いの

セラという少女
「ぐ……くそぉ、ツイてないぜ……」

 斧を手にした男は末期の言葉を残して、地面に崩れ落ちた。緑色の絨毯に赤い染みが広がる。山賊の末路は哀れとしか言いようがない。彼らも死にたくはなかっただろうが、何もしなければ死ぬのは自分達だ。リンは剣に付着した血を軽く振って落とし、鞘に収める。彼女は自らを落ち着けるようにふう、と息を吐いた。初めての実戦を終え、緊張の糸が切れたのか、汗が吹き出し頬を伝う。思わず座り込んだリンの元に、魔道書を抱えたセラが駆け寄る。

「リンさん、大丈夫ですか?」

尋ねる彼女に疲労の色はない。先の戦いも、不慣れな自分を気遣いサポートしてくれたのはセラだった。

「……怪我してますね」

「かすり傷よ。どうってことないわ」

セラの視線は左腕に走った朱の線に注がれている。全く気付かなかった。戦闘中は集中していたせいで痛みを感じなかったのだろう。今になって傷が痛むのを感じた。

「駄目です。どんな小さな傷だって戦では命取りになることがあるんですから……じっとしててくださいね」

そう言われてはリンも反論することが出来ない。両親の仇を討つために剣の稽古は欠かしたことは無いし、山賊ごときに負けないとも思っている。

しかし今の彼女には絶対的に足りない物がある。そう実戦経験だ。

『もっと強くならないと……』

セラは小走りでゲルに向かうと、荷物からライブの杖を取って帰って来る。セラは瞳を閉じ、静かに祈りを捧げた。すると杖に象眼されていた透き通る青い石が淡く発光し、リンの肌は瞬く間に傷を負う前の滑らかな肌に戻った。

「セラって魔法だけじゃなくて杖も使えたのね」

リンは傷一つ残っていない左腕をしげしげと見つめ、視線をセラに戻した。

「ええ、魔道なら一通りは。ただし闇魔法は例外ですけど」

軍師とて後方で指示を出すだけとはないと語った。それでも彼女の年で軍師であるのは珍しい。しかも一通りの魔道を扱うとなれば余計に、だ。

「さて、私ならもう大丈夫よ。とりあえず戻りましょうか」

その言葉にセラは頷き、草原の海に座るリンに手を差し伸べた。



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