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の御子

開戦、各々の思い
「……セラは僕の選択が間違っていると思うかい?」

ロイは真剣な表情で軍師を見据える。静謐な雰囲気を湛える少女は、ゆっくりと頭を振った。

「……いいえ。大切なものは無くしてからでは遅いのです。散って逝った多くの命を無駄にしないためにも私たちは、私たちに出来る最大限のことをしなければいけません」

そう言うセラの瞳にはどこか隠しきれぬ憂いが、悲しみがあった。
まるで大切な何かを無くしてしまったかのように。少なくともロイにはそう見えた。

「僕がセシリア将軍にあてて手紙を書く。それを大至急エトルリアに届けてくれ。マリナス、マーカス、その手配は任せるよ」

主の覚悟を受け取った二人は、すぐに返事を返す。リアンストも戦いに備え、ジェスナーや兵たちのもとに向かう。

「はっ!」

「……はい! こうなったらわしも腹をくくりますぞ!」

何かあれば真っ先に反対するマリナスも、何だかんだ言っても最後は結局折れるのだ。
マリナスは羊皮紙とペンを用意すべく、小走りで向かう。
フェレ軍が反乱軍に攻撃を開始したのは、太陽が真上に差し掛かった正午のことだった。

「シャニーさん。打ち合わせ通りお願いしますね」

オスティア市街、南に本陣を構えるフェレ軍の中央でセラはシャニーと共にいた。

既に一斉攻撃は開始され、ボールス率いるオスティア重騎士団がマーカス率いるフェレ騎士たちと共に先陣を切っていた。
故郷を取り戻そうとする彼らの思いは強く、敵の精鋭部隊ですらその勢いを止めることは出来ない。

「うん。じゃ、セラさん、準備できた?」

「ええ。行きましょう」

しっかりとサンダーストームの魔道書を握り締める。最早迷いはなかった。

「りょーかい」

セラはシャニーの手を借り、ペガサスに跨がる。二人を乗せたペガサスは嘶きをあげるとオスティアの空に舞い上がった。


市街に隠れていたイリアの傭兵騎士たちは、剣戟の音を聞きつけ、戦場に踊り出る。

「どうやら同盟軍の残存部隊が反乱軍に攻撃を始めたようだな。よし、我らイリア傭兵騎士団も出撃するぞ。彼らに呼応して、反乱軍を追い払うのだ!」

イリアの傭兵騎士たち――エデッサ傭兵騎士団の団長、ゼロットは高々と槍を掲げた。



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