オスティアの反乱 ワグナーとの戦いから一夜明け、ロイたちフェレ軍は出立の準備を進めていた。トリアからオスティアへはもう直ぐだ。 館の玉座の間に当たる部屋でセラやリアンストと共に今後を話し合っていたロイの元に、信じられない知らせが入ったのはその時だった。 玉座の間の扉がやや乱暴にノックされる。その慌て振りは返答の言葉さえ急いでいるような感じを受けた。 「失礼します!」 息も絶え絶えといった様子で入って来たのは真紅の鎧を纏う騎士、アレン。 「ロイ様、大変です! 今、オスティアに向かわせていた使者が戻って来たのですが、どうやらオスティアは内乱状態だそうです!」 「何だって!」 リアンスト、セラの瞳が驚愕に見開かれる。まさか……そんな。何故内乱状態になっているのか。ロイは早る気持ちで先を促した。 「何でもベルンに降伏しようとする一派が反乱を起こしたとかで……」 一番気になるのはリリーナの安否だ。彼女は無事でいるのだろうか。願いを込めてロイは問う。 「リリーナは?」 ロイがリリーナと出会ったのはもう、十年以上前のこと。ロイはオスティア城で子馬を見せてもらったことをよく覚えている。 幼い頃からどこか抜けていた自分の世話を焼いてくれたのもリリーナだ。彼女と共にこっそり抜け出し、城下に遊びに行ったこともあった。 「どうやら捕虜になっておられるとか。現在、反乱軍がオスティア城を占拠し、リリーナ様を取り戻そうとする勢力と激しい戦いを繰り返しているようです!」 アレンの言葉にロイの瞳に決意の光が灯る。まだ諦めない。必ずリリーナを助け出してみせる。それがヘクトルの最後の願いだから。 だがヘクトルの願いでなくてもロイはリリーナを助けることを厭わないだろう。 「ロイ、急ごう。ヘクトル様に続き、リリーナまで失うことは出来ない」 何故、どうして? リアンストの中にはそんな思いが渦巻いていた。主君を失い、仇討ちどころかあまつさえベルンに降伏するなどと。 一体リキアの誇りはどこへ行ってしまったのか。 「ヘクトル様のためにも必ず、リリーナ様をお救いしましょう」 そう言うセラの表情もいつに無く真剣な色を帯びる。友を救えず、更にはヘクトルの忘れ形見であるリリーナを失うわけには行かない。 「そうだね。オスティアに急ごう!」 ロイはセラたちと共に出立の命を出すため、館の門前に向かう。ロイは目を閉じ、心の中でリリーナの無事を祈った。 『リリーナ、どうか無事で!』 [次へ#] |