[携帯モード] [URL送信]

の御子

人とは違うから
「……申し訳ありません。知らずに失礼なことを」

そう、あれからもう二十年の時が流れたのだ。時の流れに自分だけが取り残される疎外感。
皆、例外なくセラより先に死んでいく。自分はいつも見送る側の人間だった。

親友であるヘクトルもセラの目の前で逝った。あまりに早すぎる死だった。覚悟していたはずなのに、割り切れない。フロリーナもニニアンも、皆逝ってしまった。
人と共に生きることがどれほど痛みを齎すのか考えつかなかったセラではない。

当然、分かっていたつもりだった。なのにいざその時が来ると辛い。身を引き裂かれるような痛みだった。
そんなセラを見てニイメは何かを察したらしい。老婆は穏やかな声で、ゆっくりと首を振った。

「お前さんが気にすることはない。息子は言っていたよ。妻よりも遥かに恐ろしい魔道の使い手がいたとね」

セレスティアという軍師を語る時、カナスは本当に嬉しそうだった。闇魔道の使い手であっても彼は学者。知的好奇心が疼いたのだろう。

理魔道士は本来なら、精霊と契約を交わすことによって、魔道書を介してその力を行使する。
だが彼女は魔道書を使わずとも精霊の力を借りた、と。

それがどれほど恐ろしいことかニイメには分かる。ただ言っただけでは、それほどの事ではないように聞こえるかもしれない。魔道書を介して力を借りる。それが魔道の常識だ。
彼女がしたのはつまり、剣を使わずに相手を“斬った”と同意義である。

「さて、物は相談なんじゃが。わたしを連れて行ってはもらえぬか? おぬしらのことは当然気になるし、ベルンが“魔竜”を復活させた可能性が高い」

「そう……ですか」

ニイメの口から出た思わぬ単語に、ロイは思わず声を上げた。魔竜とは人竜戦役で語られる竜で恐ろしい力を持っていたとされる。
セラからも聞かされてはいた。人竜戦役で竜が人に敗れた理由。それは個体差だった。しかし魔竜は竜を生み出す力を持っていたと。

そして竜の復活とほぼ同時期にベルンに現れた『暗闇の巫女』、『闇を招く者』と呼ばれる者たちがそれに深く関わっているかもしれないということまでも。

「……分かりました。ですが、危険と隣り合わせの行軍です。それでも宜しければ」

竜や魔道について深い知識を持つニイメが同行してくれるのはありがたい。

「構わないさ。……ところでおぬし……いや、何でもない。悪かったね」

じっとロイを見た後、ニイメは何かを言おうとして止めた。
一瞬のことだったので自信はないが、いうことを躊躇っている、そんな様子である。

しかし今更聞き返すことも出来ず、ニイメが出ていった後も釈然としない思いを抱えたまま、ロイは事後処理を続けることになった。



[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!