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の御子

黒い噂
「ほほう、この小さな宝珠が……」

ロイの手の中で煌く炎の宝珠がベルンの至宝と呼ばれるもの。確かに人の目を惹き付ける何かがある。
そしてその至宝をロイに預けたギネヴィアはとても見ていられなかった。

「これを渡すとき……姫はすごく辛そうだったよ。きっと最後までゼフィール王を思い留まらせたかったんだろうな……」

両親を失ったギネヴィアにとってたった一人の家族なのだ。そしてそれはゼフィールだって同じはず。
なのに、もう引き返せないところまで来てしまった。

もうこの戦いを終わらせるためには、元凶であるベルン王を討つしかない。収拾がつかないのだ。
ファイアーエムブレムを託した時のギネヴィアの姿を思い出し、ロイは居た堪れない気分になる。

「ふむ……兄妹の絆ですかな? はたから見ればまず無理な話と思っておりましたがな」

マリナスが発した言葉にロイは思わず顔を上げた。彼が言わんとしていることが理解出来ない。
何故かと問えばマリナスは、眉間に皺を寄せてこう言った。

「相手はベルン国王ゼフィールなのですぞ! 何しろ、自らの父親を手にかけた疑いがあるくらいの男ですから、肉親の情で動くなどとはとても……」

「な、なんだって! 自分の父親を?」

信じられなかった。ベルン王が自分の父を殺したなんて。驚きを隠しきれないロイに、マリナスに代わってセラが口を開いた。

「先王が崩御されたのは今より五年前、ロイ様がご存じないのは当然でしょう。ゼフィール王は先王、デズモンドの死によって国王となりました。しかし、彼の王は持病があった訳でもありません。突然の先王の死は色々と黒い噂を呼ぶこととなりました。ですが、ゼフィール王はギネヴィア様を大切に思っているはずです。少なくても二十年前はそうでした」

ゼフィールは才溢れる王子だった。先王デズモンドに比べても王の器であったのだ。
そんなゼフィールを彼は疎ましく思っていた。恐らく、ゼフィールが変わったのも五年前。
彼の性格を変えるほどの事件。それはきっと……。

だがギネヴィアを思っていたことは確かだとセラは思う。二十年前、ベルン王宮で見た兄妹はとても幸せそうで、ゼフィールはギネヴィアを本当に愛していたのだ。

「知っているのかい?」

「……知っている、と言うより目にしたんです。二十年前、ベルン王宮で。……先王デズモンドは決して良い王とは言えませんでした。大きな声では言えませんが、当時王子であったゼフィール王を暗殺させようとしたのです」

義賊集団、いや、暗殺者集団となった黒い牙に依頼して。それは自分達が間に合ったお陰で事なきを得たが、デズモンドが諦めるとは思えなかった。全てセラの推測でしかないが、恐らく間違いない。『それ』が彼を変えてしまったのだ。


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あきゅろす。
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