決着、エレンの女主人 傭兵団の突然の乱入に戦況はフェレ軍に傾いた。陣形を崩されたベルレス勢は立て直す術もなく、城に後退して行く。彼らを追撃する途中、ディークは恐らく雇い主である少年の姿を見つけた。 仕立ての良い服に青い外套を纏う少年。軍の中心で指示を飛ばす彼こそがフェレ公子ロイだろう。 「フェレ家のロイってのはあんたのことか?」 「ええ、そうです」 赤い髪の少年はディークの言葉に肯定の意を示した。 「貴方は傭兵団を束ねる方ですね」 ディークに確認したのは、ロイと共に指示を出していた銀髪の少女だ。 確かに見た目はただの少女だろう。だが傭兵としてのディークの勘は、彼女が只者ではないことを告げている。 「ああ、俺はディーク。マリナスってじいさんから話が行ってると思うんだが、もう戦いが始まっているとは思わなかった。所であんたは?」 「フェレ軍の軍師をつとめております、セレスティアと申します」 ディークの問いに少女は自らをセレスティアと名乗った。軍師にしてはかなり若い。いや、若すぎる。 「すみません。色々と事情があって……」 当の雇い主であるロイは本当に申し訳なさそうで、見ているこっちが悪かったと思いたくなる。 「いや、責めてるわけじゃねえんだ。それどころか早速ウデの見せ所だって皆張り切ってるくらいだ」 「そう言って貰えると助かります」 ロイと言う少年は貴族らしくない。彼が今まで見てきた貴族は一人を覗き、傭兵をただの駒としか見ていなかった。 だがこの少年は違う。まさかリグレ公のような貴族に出会うとは思いもしなかった。 「じゃ、とっと済ませちまおうぜ」 「はい!」 それから数分の後、傭兵団の活躍もあってベルレス城は陥落した。制圧した玉座の間でロイとセラは、エレンの女主人を待っている。 「ロイ様、お連れ致しました」 エレン、マリナスと共に現れた女性は息を飲むほどに美しかった。 緩やかに波打つ黄金の髪に瞳は、大粒のエメラルドを思わせる緑色。華やかな美貌はまるで女神が降臨したのではないかと思わせる。 「あなた方が私どもの恩人ですのね。失礼ですが、お名前は……」 「フェレ候エリウッドの息子、ロイと言います」 一瞬、女性に見とれていたロイだが、我に返ると凛とした表情で答えた。 「……御無礼を承知で申し上げます。あなた様は、ベルン王妹ギネヴィア殿下ではありませんか?」 彼女がギネヴィアだと分かっていた。彼女には二十年前にベルン王宮で見たギネヴィアの面影があったのだから。 [*前へ][次へ#] |